本研究会は、研究者、超党派の政治関係者、そして多様な市民運動に携わるメンバーが、グリーン・ニューディールによる持続可能かつ公正な社会・経済への転換と、ポストコロナの新しい世界のあり方を研究・提言するため、2020年7月に設立しました。特に、世界のプログレッシブ(革新的)な政治勢力が掲げる、反緊縮経済理論を背景としたグリーン・ニューディールの研究と海外レポートの翻訳・紹介、そして日本版グリーン・ニューディール政策の作成・提言を行います。
翻訳:朴勝俊(ぱく・すんじゅん、Park Seung-Joon)、2024年5月30日
Forum New Economy
(2024) NEW PARADIGM, The Berlin Summit Declaration
– Winning back the people (with the press release), 29. MAY 2024
https://newforum.org/en/the-berlin-summit-declaration-winning-back-the-people/
https://newforum.org/wp-content/uploads/2024/05/EN_press-release_appeal_berlin_summit-1.pdf
フォーラム・ニューエコノミーは、気候変動や、不平等の拡大、グローバリゼーション、政府の役割の再定義といった大きな課題に対応する、新たな解決策と包括的なパラダイムを模索することを目的に、2019年にベルリンで設立された超党派のプラットフォームです。革新的な研究者を支援し、著名な専門家と実務家およびより広範な一般市民を結びつけます。
世界をリードする専門家たちが、大衆の高まる不信感に対する緊急対策を呼びかけた
フォーラム・ニューエコノミーがベルリン・サミット「人々をとりもどす(Winning back the People)」に際して発表したアピールは、「人類と地球への大きなダメージを回避するためには、人々の憤りの根本原因に早急に対処せねばなりません」と宣言しています。共同アピールによれば、各国政府は、人々のコントロールの喪失感を認識し、早急にそれに対処すべきです。そのために専門家らは、経済危機の早い段階で新しい企業を誘致し雇用を確保すること、富と所得の不平等を是正し、グローバリゼーションを改善することなどを提言しています。
署名者には、ハーバード大学のダニ・ロドリック教授や、ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンのマリアナ・マツカート、コロンビアの経済学者アダム・トゥーズ、ニューヨークの不平等研究者ブランコ・ミラノヴィッチ、トマ・ピケティ、元IMFチーフエコノミストのオリヴィエ・ブランシャール、デュッセルドルフのハインリッヒ・ハイネ大学のイェンス・スデクム、マサチューセッツ州アマースト大学のイザベラ・ヴェーバー、持続可能性の専門家マヤ・ゲペルといった著名な専門家が名を連ねています。
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2028年、グリーン・ニューディール政策を求める「サンライズ・ムーブメント」の若者たちは、ペロシ下院議員のオフィスを占拠して、気候政策に真摯に取り組むことを要求した(多くが逮捕された)。サンライズ・ムーブメントは大学生が中心の運動で、「誰ひとり取り残さない」ための、GNDを求める運動を展開してきた。かれらの運動を受け止め、具体的な政策として打ち出したのが民主党左派の議員たちである。バーニー・サンダースのGND政策は、15年間で16.3兆ドル(1ドル=140円として、2282兆円)という、大規模な積極財政政策であった。サンダースはこの政策を掲げて、民主党の大統領候補予備選挙に挑戦した。結果は敗退だったものの、この予備選がアメリカの運命を大きく動かすことになる。サンダースたちが蒔いたGNDの種が、のちに米国バイデン政権の気候対策法、「インフレ抑制法」に結実するのである。本稿ではこの「インフレ抑制法」の成立に至る経緯の全貌を明らかにする。
2019年の大統領予備選挙において、民主党の有力候補であったバーニー・サンダースはグリーン・ニューディールを目玉政策として打ち出しました。15年間で1700兆円以上という巨額の財政出動と、年齢・人種・性別などの違いを超えた人々の結集によって、米国の経済・社会・産業・社会保障をグリーンで公正なものに転換するという、壮大な計画です。あらゆる分野にまたがるバーニーの構想の全容と、反緊縮=積極財政を基盤としつつ、格差是正のための税制にも切り込んだその財源リストを翻訳・公開しました。
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要約:インフレはマクロ経済の現象であり、いつだってマクロ経済の引き締めによって対処しなければならないというのが、支配的な見方である。これに対して我々は、米国のCOVID-19インフレは、ミクロ経済的な原因によるものであり、市場支配力を持つ企業の価格引き上げ能力からくる「売り手インフレ」であると主張する。
このような企業は価格決定者であるが、競合他社が同じ行動をとると予想される場合にのみ、値上げに踏み切る。それには部門全体のコストショックや供給のボトルネックによって、彼らの間に暗黙の了解が成立する必要がある。我々は、寡占市場における価格設定に関する長年の文献をレビューし、決算報告書や企業レベルのデータを調査して、三段階のインフレプロセスの枠組みを導出した。すなわち (第1段階) コモディティ市場のダイナミクスやボトルネックによって、システミックに重要な上流部門における価格上昇がタナボタ利益をもたらし、さらなる値上げの刺激となる、(第2段階) コスト上昇から利益を守るために、下流部門は値上がり分を転嫁するが、ボトルネックによる一時的独占の場合にはさらに値上げ圧力を増幅させる、(第3段階) 労働者は賃金闘争の段階で実質賃金の低下を防ごうとする、というものである。
このような売り手インフレによって一般的な物価上昇がもたらされる。これは一過性のものかもしれないが、一定の条件下では持続的なインフレスパイラルにつながる可能性もある。政策は、インフレの発生を防ぐために、最初の刺激段階での価格上昇抑制を目指すべきである〔その手法として備蓄や価格規制、タナボタ利益課税などがある〕。
表題の規則は2022年10月6日付けで成立した。規則(regulation)とはEU法の一種で、欧州連合の立法機関(欧州閣僚理事会と欧州議会)で可決されればそのまま各加盟国に適用されるものであって、各加盟国の立法上の裁量権が強い指令(directive)とは異なる。今回の規則の内容について、詳しくは朴勝俊の仮訳を参照されたい。
この規則は、2021年9月以降の電力価格高騰に、とりわけロシアのウクライナ侵攻や、異常気象や技術的問題によるフランスの原発発電量の減少、および異常気象による南欧における水力発電量の減少による電力価格高騰に対処するものである。
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アメリカの政治を動かし、グリーン・ニューディールを一部ではあるものの、バイデン大統領に実現させた若者たちの運動・サンライズ・ムーブメント。彼ら彼女らが運動の柱として掲げた「11の柱」とは?
サンライズ・ムーブメント 11の原則
翻訳:朴勝俊(2022/11/20)
典拠:https://www.sunrisemovement.org/principles/?ms=Sunrise%27sPrinciples
プラカシュ&ジルジェンティ(2021)『グリーン・ニューディールを勝ち取れ』那須里山舎
レアアースは電気自動車(EV)や風力タービンの製造に重要な役割を担っており、エネルギー変革に不可欠な資源です。野心的なエネルギー変革のシナリオでは、電気自動車と風力発電の永久磁石と、それに含まれるレアアースに対する総需要は、現在から2030年の間に2倍から4倍以上になると予測されています。
レアアース資源はエネルギー変革のすべてのニーズを満たすのに十分な量があることが分かっています。しかし、レアアースの精錬など処理能力のノウハウが特定の国、特に中国に集中しているなどの課題があり、生産は容易に拡大することができません。レアアースの供給リスクを低減するための対策とともに、レアアースへの依存度を下げる新しい永久磁石材料の研究も急がれます。
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2019年、米国民主党は若者達の気候運動サンライズ・ムーブメントの訴えなどを受け、新人下院議員のアレクサンドリア・オカシオ=コルテスを中心として、グリーン・ニューディール決議案を議会に提出しました。この決議案は残念ながら否決されましたが、気候変動を止めるための野心的な目標を盛り込んだ、画期的な内容でした。その後、グリーン・ニューディールは実質的にバイデン大統領の主要政策に盛り込まれ、様々な政治的困難に直面しながらも、実現に向けて動き始めています。このグリーン・ニューディール決議案に盛り込まれた「経済変革による排出削減において、米国は主導的役割を果たす必要がある」「気候変動や環境汚染、環境破壊は、体系的な人種的・地域的・社会的・環境的・経済的不公正を悪化させる」は、同じ先進国である日本にとって必要な視点です。
ドイツ原発運転延長に反対する4つの要点
原題:この現状に原子力発電はなぜ全く役に立たないのか
クリストフ・バウツ(Christoph Bautz)
翻訳:朴勝俊with DeepL
原典(ドイツ語)
https://blog.campact.de/2022/08/warum-atomkraft-uns-jetzt-gar-nicht-hilft/
ドイツでは原発の延長が議論されています。2ヶ月前には全く現実的ではないと思われたことが、今やこの夏の中心的な議論になっています。迫りくるエネルギー不足とエネルギー価格高騰を考えると、原子力にはまだ未来があるとすべきか、そして最後の3基の原子炉を予定通り年末に停止すべきか否か、ということです。早ければ今月末にも、この議論から具体的な政治的判断が現れる可能性があります。その頃には、経済大臣のロバート・ハベック(緑の党)が、冬のエネルギー供給に関するストレステストの結果を発表したいとしています。
私たちキャンパクト(Campact)のもとには、日々、不安を抱えた市民から手紙が届きます。原子力が復活させる必要はないのでしょうかと。あるいは少なくとも、最後の3基の原子力発電所の燃料を、年明けまで燃やし続ける、いわゆるストレッチ運転は必要では、と。
一見すると、異常な時代には異常な答えが必要です。イデオロギー的な反射も、10年前の決断にしがみつくことも、必要ありません。最近、政府がガスを節約するために石炭の段階的廃止を数カ月間は中断すると決めたように。あるいは、北海やバルト海に浮体式LNG基地を短期間で設置し、液化ガスを輸入したように。それならば、脱原発についても、実用的なアプローチこそが正しいのでしょうか?
しかし、よくよく考えてみると、石炭やLNGの基地とは状況がまったく違います。なぜ、このような結論になるのか、現在、最も多く寄せられている市民からの評価をもとに分析してみましょう。
2022年8月16日にジョー・バイデン大統領は「2022年インフレ抑制法(H.R.5376)」と題された法律に署名した。8月7日に上院を通過し、12日に下院で可決されたものである。2022年インフレ抑制法は、国内エネルギー生産への投資と医療・医薬品コストの引き下げを行いながら、財政赤字を減らし、物価上昇を抑制することを目的とした法律である[1]。再生可能エネルギーの支援なども含むことから「気候対策法」などとも呼ばれているが、これは、バイデン政権が2021年に提出した法案に比べれば、ずいぶん後退したものである。
前回の法案は「経済再建法案(Build Back Better
Act)」と呼ばれ、気候・経済・労働・福祉など様々な対策のために、オリジナル版では約3.5兆ドル(約470兆円)、見直し版では約2.2兆ドル(300兆円規模)を掲げていた[2]。民主党が多数をとっている下院は通過したが、上院で否決された。上院は100議席のうち民主党と共和党が50対50のところ、共和党は全て反対で、民主党から一人でも反対が出れば否決であったが、その反対に回ったのがジョー・マンチン議員(ウエストバージニア州選出、石油・ガス会社から献金を受けている人物)であった。
今回の「インフレ抑制法」は、マンチン議員が賛成できるほどに、財政の規模を縮小し、石油・ガス会社にもチャンスを与えるものとなった。7370億ドル(約99兆円)の財源を調達し、4370億ドル(約59兆円)の総投資をもたらし、財政赤字を3000億ドル(約40兆円)以上も削減すると見込まれている。またこの法律は、メディケア機関に処方薬価格の引き下げ交渉を行わせる一方で、医療安価法(ACA,
Affordable Care Act、いわゆるオバマケア)の拡大プログラムを2025年まで3年間延長するとしている。
さらにこの法律では、国内でのエネルギー生産と送電網構築を促進・支援するための政策が確立されている。その目的として掲げられているのは、消費者の負担を下げ、米国が長期的な排出量目標を達成することを支援することである。
本稿ではInvestopediaのHPに掲載された、ジム・プロバスコ(Jim Probasco)の解説”Inflation Reduction Act of 2022“を参考に、この法律の解説をおこなう。
このワーキングペーパーは、J.M.ケインズがHow to Pay for the War (戦費調達論) という小冊子の中で発展させた方法論に従い、グリーン・ニューディール (GND) の 「費用」
をリソース需要の観点から推定する。必要となる政府支出の推計値を単純に合計するのではなく、GNDプロジェクトの実施に充てられるリソース(resources)の利用可能性を評価するのである。これには、未利用あるいは未活用の資源を動員するとともに、資源を現在の破壊的・非効率的な利用からGNDプロジェクトに移行することが含まれる。我々は、通貨主権を有する米国政府にとって支払い能力(affordability)は問題にはならないと主張する。むしろ、十分な資源をGNDに回せない場合はインフレが問題となる。そしてインフレの可能性が高い場合には、ターゲットを絞った徴税や、賃金・価格規制、配給制、自発的な貯蓄などのインフレ対策が必要となるだろう。ケインズに倣い、我々はインフレ圧力が生じた場合の第一選択として、消費の先おくりを推奨する。我々は、インフレを発生させることなくGNDを段階的に導入できる可能性は高いが、もし物価上昇圧力が生じた場合には、消費をいくらか先送りすることで、その圧力を緩和するに十分であると結論づける。
キーワード: グリーン・ニューディール、ケインズ、戦費調達論、現代貨幣理論
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日本は、2050年までにカーボンニュートラルを達成するという野心的な目標を掲げた。しかし政府は原子力や化石燃料の選択肢を放棄する気はないようである。また日本の人々の多くは、とりわけ長引く不況で経済的に苦境に立たされている人々は、気候変動は緊急の問題ではなく、エリート層の関心事とみなしている。気候変動政策を実体のあるものにするためには、気候運動を活性化させ、国民にもっと情報を与え、与党に公約を実行するよう求める必要がある。そのためには国際社会が、とりわけドイツのように脱原発とカーボンニュートラルを同時に目指している国々がモデルケースとなり、クリーンエネルギー社会への移行が経済的にも堅実で有益であることを示すことが求められる。
※この論考は、ハインリッヒ・ベル財団のHPに英語で掲載された論考の日本語版です。
The Feasibility and Future of Japan's Climate
Policy
Heinrich Boell Stiftung Hong Kong
IEA(国際エネルギー機関)の最新報告書「2050年ネットゼロ」を、わかりやすく解説した動画です。原書は英語で、A4で240ページ以上あるため、全て読むことが難しい方も多いでしょう。この動画で報告書の要点を押さえることができます。
『気候危機とグローバル・グリーンニューディール』出版記念ウェビナーは、盛会のうちに終了しました。ありがとうございました。動画は参加申込みされた方、限定で公開させて頂きます。
気候危機は解決できる―。ノーム・チョムスキーと、オバマ大統領の政策顧問だったロバート・ポーリンが、気候危機を公正に解決するための「グローバル・グリーンニューディール」構想を語り尽くす!
国際労働機関(ILO)が2015年に発表した、Guidelines for a just transition
towards environmentally sustainable economies and societies for all
を日本語訳したものです。この中でILOは「ディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)と、貧困撲滅、環境の持続可能性は、21世紀を代表する3つの課題です。経済は、増加する世界人口のニーズを満たすために生産的でなければなりません。社会は包括的で、すべての人にディーセント・ワークの機会を提供し、不平等を是正し、効果的に貧困を解消しなければなりません」と謳っています。危機対策として化石燃料から再生可能エネルギーへの移行など、大きな産業構造の転換に直面する今こそ、誰ひとり取り残さない「公正な移行」が求められています。
2021年10月5日、真鍋淑郎さんが地球科学としてはじめて分野の壁を破ってノーベル物理学賞を受賞しました。真鍋さんの「気候モデル」こそ、地球温暖化や長期的な気候の予測を可能にし、パリ協定や再生可能エネルギーの導入につながった重要な研究です。この「気候モデル」に結実するまでには、天文学や海洋学、気象学など幅広い分野の先行研究が存在しました。中には、当時はほとんど理解されず、その先見性が後に明らかになった研究も存在します。地球温暖化はいつ頃から、どのような人々によって「発見」されたのか?その足跡をたどります。
SDGsに関して、近年その内容を踏まえない不当な批判がなされています。しかし、SDGsは途上国からの発案で「誰ひとり取り残さない」という理念のもと、世界が目指すべき持続可能な社会像を文章化したものです。2015年の国連総会では、全ての国がこの文書に賛成しました。一度、SDGsそれ自体を読んでみませんか?
政府の公式仮訳は読みにくい文体のため、誰でもわかりやすいように翻訳しました。
格差・貧困の解消、ジェンダー平等、生物多様性、社会的公正、そして気候危機の解決など、世界が目指すべき目標が盛り込まれています。
【動画】SDGsはどのようにして生まれたか?(作成・解説:朴勝俊)
これを見ればSDGsがだいたい分かる!
SDGsを正しく知ってもらうために、その概要や成立の経緯を分かりやすく解説しました。
※訂正 スライド29:京都議定書の第一約束期間は2008年から2012年です。
電気自動車(EV)は、気候変動に関するグローバルな目標を達成するための重要な要素です。パリ協定の目標である2℃または1.5℃以下に温暖化を抑制する緩和策の中で、電気自動車は重要な位置を占めています。
しかし、EVから直接温室効果ガスが排出されることはありませんが、EVは世界の多くの地域で化石燃料から生産された電気で走行しています。また、車両の製造、特にバッテリーの製造にもエネルギーが使われています。メディアの最近の、誤解を招くような報道を受けて、Carbon Briefが電気自動車の気候への影響について詳細に分析しました。この分析で、Carbon Briefは、欧州全体で見ると、EVは従来型(内燃機関)の自動車に比べて、そのライフサイクルにおける排出量がかなり少ないことなどを発見しました。
雇用創出を優先することで気候危機と経済的不公平に同時に対処するグリーン・ニューディール(GND)政策案は、世界各国・各自治体で、レベルの異なる様々な政府に向けて策定されている。最も注目されたのは2019年にオカシオ・コルテス下院議員とマーキー上院議員が議会に提出した米国の連邦政府のGNDである。それ以来、GNDの統合的な多部門的アプローチを共有する、複数の気候政策提案が登場している。現在まで、GNDフレームワークの諸提案の比較評価はほとんど行われていない。世界中の都市・地域・国家がCOVID-19パンデミックからの回復を計画し、経済的不公平の悪化や、人種的不公平、気候の激変に対応していく中で、環境・経済・社会問題を統合的アプローチにより同時解決するための政策を研究する必要性が、これまで以上に高まっている。この論文では、地方自治体から国際的規模まで、複数のレベルの政府にまたがる14のGND型政策案を検討し、その構造や詳細度、目標を比較してゆく。私たちはGNDフレームワークが、従来の市場志向ないしは人間行動志向の戦略よりも幅広く、気候変動を引き起こす複数の複雑な要因に立ち向かうための、新たな多面的な政策アプローチとして浮上していることを発見した。
この新綱領で私たちは「予防」の原則を未来の支柱とし、変化を安定の基礎ととらえます。私たちは豊かさを、気候中立性と予防原則、正義、そして生活の質によって新たに定義し、それによって私たちの政治の方向を決めます。コロナ・パンデミックがもたらした大きな変化を活かし、長らく待ち望まれていた改革を実行すべき時です。数々の異常事態が発生し秩序づけが必要となった時にこそ、根本的に公正な社会変革のための新たな機会が生まれるのです。
※2021年12月8日 Ver.3に更新しました
IEA(国際エネルギー機関)の最新報告書「2050年ネットゼロ」を日本語訳!
序文「この報告書は、IEAの歴史の中で最も重要かつ挑戦的な仕事のひとつだと、私は考えています。このロードマップは、エネルギーデータのモデリングに関するIEAの先駆的な取り組みの集大成であり、IEAの2つの主要シリーズであるWorld Energy OutlookとEnergy Technology Perspectivesの複雑なモデルを初めて統合したものです。このロードマップは、IEAの作業の指針となり、今後、これら2つのシリーズに欠かせないものとなるでしょう」
この翻訳は、翻訳者・朴勝俊の責任で独自に行ったものであり、IEAがこの翻訳の内容や正確さを保証するものではありません。この報告書を引用する際は必ず原典から行うようにしてください。また、この翻訳では必ずしも全ての図表のキャプションを訳出 しておりません。
IEA (2021), Net Zero by 2050, IEA, Paris https://www.iea.org/reports/net-zero-by-2050
※全文訳PDF版をご希望される方は、フォームからお問い合わせ下さい
ウェビナーは大勢の方にご参加頂き、盛会のうちに終了することができました。ご参加ありがとうございました。
ウェビナーの動画を公開しました。またチャットで寄せて頂いたご質問やご感想と、それに対する登壇者のみなさんのご回答を、イベントページで公開しています。
グリーン・ニューディール(GND)は、気候危機と経済危機を乗り越えるために、社会・経済の抜本的な改革を行う政治的アジェンダである。しかし産業構造の転換は、歴史上、多くの「痛み」を伴った。労働者たちの生活状況を、悪化させることのない「公正な移行」が求められる。パンデミックに伴う経済危機と気候危機に直面する今こそ、原子力産業や化石燃料産業からグリーン産業への転換を推進するGNDと、それを支えるユニバーサル・ベーシックインカム(UBI)が必要とされている。
世界は今、大きな転換点を迎えている。この数十年間、新自由主義に則り、財政削減などを推進して来た国々や世界銀行、そしてIMFが、危機に直面したことで一転してケインズ的な積極財政主義に立ち返ったのだ。各国は政府や公共の役割を見直し、財政出動に方針転換せざるを得ないだろう。重要なのは、パンデミックからの回復策と財政出動は、私たちが直面している、格差・貧困と気候変動という2つの大きな危機を克服する物でなくてはならないことだ。その戦略こそ、反緊縮政策に基づいたグリーン・ニューディールなのである。
※この記事は、ハインリッヒ・ベル財団香港支局のHPに英語で掲載された論考の日本語版です。
Anti-Austerity Green New Deal: A Recovery Plan After the Pandemic 9 April 2021 By Hasegawa Uiko
現在、太陽光発電システムは、ほとんどの主要国で石炭やガスよりも安価な技術で「史上最も安い電気」を提供している。国際エネルギー機関(IEA)が発表した「世界エネルギー展望2020」によると、再生可能エネルギーは急速に増加し、石炭は「構造的」に減少し続ける状況にある。しかし、温室効果ガスの排出量ゼロを達成するためには、電力部門だけでなく、世界経済のあらゆる部分において「前例のない」努力が必要であるとも述べている。
IEAの、2050年までに世界のCO2排出量を正味ゼロにするモデルによると、「週3日の在宅勤務」などの個人の行動の変化が、この新しい「2050年までに正味ゼロエミッション」の達成に 「不可欠な」 役割を果たすとしている。
アメリカのグリーン・ニューディール政策に関する美しいイメージビデオです。最年少で下院議員となった民主党のアレクサンドリア・オカシオ=コルテス議員がナレーションを担当しています。オカシオ=コルテス議員が、若者たちのグリーン・ニューディール運動に応え、2019年にグリーン・ニューディール法案を米国議会に提出したことで、米国ではグリーン・ニューディールが一躍注目を集めました。この動画は同じくGNDを推進する、ジャーナリストのナオミ・クライン氏らが作成したものです。
Webinar East Asia After the Pandemic Green New Deal & Green Recovery:It was a success, Thank you for joining us.
The ENG and JPN versions of the discussion paper and the transcript of the Q&A can be DL HERE.
東アジアのグリーン・ニューディル&グリーン・リカバリー:パンデミック後を見つめて
ウェビナーは盛況のうちに終了することができました。ご参加ありがとうございました。パネリストのみなさんが、韓国、台湾、中国、日本のグリーン政策(GND)とその財源についてまとめた英語版・日本語版の発表資料と、質疑応答の書き起こしはこちらからDLできます。
1944年のブレトンウッズ会議で、ケインズの国際決済制度バンコールは却下された。今、率直な問い直しが必要だ。ケインズの捨てられた計画は、2008年以降の多極化した今の世界にこそふさわしいものではないだろうか?
ケインズは時代を先取りしていた。彼の提案には、1940 年代には存在しなかったデジタル技術と外国為替市場が必要だったのだ。しかし今やわれわれは、国際決済制度の経験とともに、それらを既に手にしている。現在、グローバルな緑の移行基金の必要性は非常に高まっている。
文在寅大統領「韓国版ニューディールは、未来を拓き跳躍させる“韓国大転換”宣言であり、韓国の新100年計画である」
2020年7月に発表された韓国版ニューディールは、デジタル・ニューディールとグリーン・ニューディ-ルを柱とし、2025年までにデジタル分野と気候変動・環境対策部門への大規模投資で成長を促進し、雇用を生み出そうとする国家計画である。しかし、その気候変動対策目標は不十分(※1)であるという指摘もあり、今後のどのように実施されるかに注目する必要がある。全文を和訳し、公開する。
※1
イ・ユジン著/長谷川羽衣子訳:韓国の改革はグリーン・ニューディールと呼ぶべきではない
ホン・ジョンホ著/長谷川羽衣子訳:日本語版:韓国のグリーン政策「COVID-19時代の韓国のグリーンニューディール」
概要:大恐慌によって、ニューディールが後押しされた。経済を回復させ、貧困者や失業者を救済し、国内の金融システムの根幹を改革するためである。今日では、気候変動の差し迫った悪影響により、各国政府はこれに似たグリーン・ニューディールを提案している。最近、Energy Research & Social Science誌で、ガルビンとヒーリーは、米国のグリーン・ニューディール提案の経済的実行可能性と、広範な社会的・貨幣的・環境的インプリケーションを批判的に検証した。
2019年12月11日に公表された、欧州グリーン・ディールの全文和訳を公開します。
欧州グリーン・ディール
作成:欧州議会、欧州理事会、欧州閣僚理事会、欧州経済社会委員会、地域委員会に対する、欧州委員会のコミュニケーション
翻訳:長谷川羽衣子、朴勝俊
概要:欧州グリーンディールは、現在の世代にとって最重要課題である気候・環境関連問題への対応策である。2050年までに温室効果ガスの純排出をゼロにし、経済成長が資源利用量から切り離された、近代的で資源効率性の高い、競争力ある経済を実現し、EUを公正で豊かな社会に変えることを目的とした新しい成長戦略なのである。
In response to the climate crisis and the growing inequality and poverty due to neoliberalism, a series of anti-austerity Green New Deal (GND) proposals have been presented in Europe and the United States since 2018. A GND is a radical policy approach combining environmental and economic policies. In order to mitigate climate change, the transition to a zero-carbon society needs to happen in a shorter timespan than was previously anticipated. Addressing this need, the GND calls for massive investments while also keeping in mind the ‘just transition’ of jobs as well as the rectification of injustices related to wealth, gender, race, generation and so forth. The approach is based on an anti-austerity economic theory, meaning that its main source of funding is not additional taxes but rather the mobilisation of large-scale private-sector funds (e.g. pension funds) and, for countries whose governments have the power to create money, deficit spending.
To cite this article: PARK Seung-Joon, Uiko HASEGAWA and Tadasu MATSUO (2020) “On the Anti-Austerity Green New Deal”, Review of Environmental Economics and Policy Studies, 2020, 13(1), pp. 27-41
Translation: Kenji Hayakawa
Supported by Heinrich Böll Stiftung, Hong Kong Regional Office
オカシオ=コルテス下院議員とマーキー上院議員によって提起された米国グリーン・ニューディール(GND )決議と、バーニー・サンダース上院議員のより詳細な、完全なコスト表を含むバージョンの特徴を概説した論文を翻訳・公開する。
この優れた論文は、GNDの最も顕著な特徴のうちの 2 つ、マクロ経済学と気候変動対策と経済的不平等改善との表裏一体の結びつきに焦点を当てている。
特にサンダースGNDのコスト試算は必読である。
詳しくはこちら
アメリカの連邦議会上院議員で、民主党の有力大統領候補としてヒラリー・クリントンやジョー・バイデンと接戦を繰り広げたバーニー・サンダースは熱狂的な支持者が多いことで知られている。彼の政策は国民皆保険や住宅保証、雇用保障、高等教育の無償化など、格差や貧困を是正し、公正な社会を築くことに重点を置いており、アメリカのプログレッシブ派(進歩派)の代表として知られている。また、彼はグリーン・ニューディールを主要政策に位置づけており、非常に野心的な産業・社会構造の転換を伴う、低炭素社会へのロードマップを打ち出している。これらはルーズベルトの大統領の政策を参考にしており、実に60 兆ドル(6600 兆 円 )規模の公共投資政策である。サンダースの政策の詳細と、その「財源」、そして経済顧問のひとりであるケルトン氏と共に練り上げた「21世紀の経済権利章典」を詳しく解説した。サンダースの政策を読み解くことよって、日本にも活用できる政策を検討し、世界の潮流となった反緊縮経済ロジックを学ぶ。
グリーン・ニューディールを名乗らない、グリーン・ニューディール公約
11月3日、アメリカ大統領選挙が投開票される。民主党のバイデン候補は、トランプ大統領が軽視する気候変動問題に関して、画期的な公約を掲げている。100%再生可能エネルギー社会への移行である。これは民主党の大統領候補指名争いで最大のライバルだった、熱狂的な支持者を持つサンダース議員や、彼を支持したオカシオ=コルテス議員が掲げた「グリーン・ニューディール」を、その名称以外そのまま取り込んだものと言える。サンダースやオカシオ=コルテスらは、しばしば「過激な左派」というレッテルを貼られるため、バイデンは保守層や中道層の票を取りこぼさないために、敢えて「グリーン・ニューディール」という名称を全面に押し出さなかったと考えられる。コロナ危機からの経済回復は、持続可能な経済への公正な移行でなければならない。グリーン・ニューディールと同等の政策をバイデン候補が打ち出したいま、来たる大統領選の結果が、世界の未来を大きく左右する可能性もある。
ただし、バイデン公約の「イノベーション」という項目には「先進的な原子力」が含まれており、この点は批判的に検討されるべきである。
※バイデンのグリーン・ニューディール的政策の日本語訳全文は、以下のPDFをDLしご覧頂けます。
気候政策の評価に広く用いられている応用一般均衡モデル(CGE)は、金融システムに関しては、現実に見られるものとは全く異なる仮定を置いている〔貨幣量は外生的で固定的であるとしている〕。この仮定のせいで必ず投資の「クラウディングアウト」が起こる。またCGEモデルの設計上の特徴のせいで、事実上すべてのケースにおいて、気候政策は(国内総生産(GDP)や経済厚生の観点からみて)経済に悪影響をもたらすという結果となる。
これに対してマクロ計量モデルは、不均衡の経済理論に基づいてより実証的なアプローチを採用しており、金融システムについてもより現実的な取扱いをしている。マクロ計量モデルは、環境分野への投資が必ずしも、他の分野への投資をクラウドアウトすることにはならず、経済に刺激を与える可能性があることを示す。
新型コロナウイルスは新自由主義の限界を明らかにした。もはや、新自由主義にすり寄った中道路線や、誤った健全財政主義では危機を克服できない。左派リベラルは、経済回復を約束するグリーン・ニューディールを打ち出し、気候危機と経済危機、そしてあらゆる不平等に立ち向かうべき時である。
この記事は、ハインリッヒ・ベル財団香港支局のHPに英語で掲載された論考の日本語版です。
財団の許可を得て掲載します。
Heinrich Boell
Stiftung Hong Kong
Why Japan Needs an Anti-Austerity Green New Deal After Covid-19
28 July 2020 By Hasegawa Uiko
格差や貧困の拡大と,気候危機を背景として,2018年以降,欧米では反緊縮グリーン・ニューディール(GND)が相次いで提案されている.GNDは,環境政策と経済政策を統合させた急進的な政策案である.気候変動防止のために従来提案されていたよりも,早急に炭素排出ゼロ社会への移行を実現するために,巨額の投資の実施を求めるとともに,雇用の「公正な移行」の実現と,富や人種,ジェンダー,世代などに関わる不正義の解消にも注意を払っている.また反緊縮の経済理論に基づき,資金は主に増税によってではなく,年金基金等の巨額の民間資金の誘導と,(通貨発行権を有する国々の場合は)赤字支出でまかなうことを求めている.
※環境経済・政策学会のHPから全文をDLしてご覧下さい
https://www.jstage.jst.go.jp/article/reeps/13/1/13_27/_article/-char/ja/