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気候・エネルギー政策評価用のエネルギー経済モデルにおける 金融部門と貨幣の役割

著者: ヘクター・ポリット(ケンブリッジ・エコノメトリクス)
&
ジャン・フランソワ・メルキュール(ケンブリッジ大学)

翻訳: 朴勝俊(202098日)

 

The role of money and the financial sector in energy-economy models used for assessing climate and energy policy

Authors: Hector Pollitt & Jean-Francois Mercure

 

To cite this article: Hector Pollitt & Jean-Francois Mercure (2018) The role of money and the financial sector in energy-economy models used for assessing climate and energy policy, Climate Policy, 18:2, 184-197,
DOI: 10.1080/14693062.2016.1277685

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気候・エネルギー政策評価用のエネルギー経済モデルにおける 金融部門と貨幣の役割
Pollitt and Mercure 2018 the role of mon
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参考:E3MEモデル マニュアルver6.0 日本語版

http://www.reeps.org/top_news/201805/E3ME_Manual%20ver6.0_jpn_%202018.pdf


要約

 

本論文では、気候・エネルギー政策のマクロ経済的な費用・便益を推定するために用いられている評価手法のあいだの、重要な相違点について概説する。気候政策の評価に広く用いられている応用一般均衡モデル(CGE)は、金融システムに関しては、現実に見られるものとは全く異なる仮定を置いている〔貨幣量は外生的で固定的であるとしている〕。この仮定のせいで必ず投資の「クラウディングアウト」が起こる。またCGEモデルの設計上の特徴のせいで、事実上すべてのケースにおいて、気候政策は(国内総生産(GDP)や経済厚生の観点からみて)経済に悪影響をもたらすという結果となる。

 

これに対してマクロ計量モデルは、不均衡の経済理論に基づいてより実証的なアプローチを採用しており、金融システムについてもより現実的な取扱いをしている。マクロ計量モデルは、環境分野への投資が必ずしも、他の分野への投資をクラウドアウトすることにはならず、経済に刺激を与える可能性があることを示す。もちろんマクロ計量モデルにも限界がある。気候・エネルギー政策の可能性をより良く評価し、グローバルな金融システムのダイナミクスをより深く理解するためにも、ふたつのアプローチの改善を急ぐ必要がある。

 

 

政策提言への貢献

 

本稿は、気候・エネルギー政策の評価に用いられるマクロ経済モデルにおける、金融システムの扱いについて論じている。政策立案者対して誤解を招く情報を提供することになりかねない、モデリング・アプローチの限界について説明している。

 

 

1. はじめに

1.1. 世界は2℃の目標を達成することができる - しかし誰がそのコストを負担するのか?

 

温室効果ガス濃度を 450ppm 以下に抑えるという目標(すなわち人為的な気温上昇を産業革命以前のレベルから 2℃未満に抑える可能性が 50%となる目標)に沿ったグローバルな排出経路は、技術的に可能であるという合意が形成されつつある(IPCC, 2014)。したがって、2℃の目標を達成するか否かは技術的問題というより、希少資源の配分に関わる政治的な問題である。

新たな政策を導入しなければ排出削減目標は達成できない。Grubb, Neuhoff and Hourcade (2014)で説明されているように、これらの政策には主に3つの種類がある:

 

- 規制による効率性基準の強化など、既存の技術を活用したエネルギー利用を改善するための政策

- 既存の技術に応じた効率的な資源配分を達成するための政策であり、主に市場を活用したメカニズム(マーケットプル政策)を通じたもの

- 研究開発費に対する税額控除など、新技術開発へのインセンティブ(技術プッシュ政策)

 

これらの政策には共通の特徴がある(それらの対象範囲は大きく異なり、ひとつの省庁の管轄とならない場合もあるが)。いずれも、政府が介入しなかった場合と比べて、経済資源の再配分を伴い、多額の投資を必要とするものである。政策の効果は実体経済だけでなく金融システム全体にも及ぶため、低炭素技術に投資を行う人々と、必要な融資を行う銀行などの金融機関、そして機器を製造・設置する企業との相互作用を理解することが、全体的な影響を評価する鍵となる。

 

3種類の政策はいずれも、経済的な勝者と敗者を生み出し、ミクロレベルとマクロレベルの両方で経済的な影響をもたらす。そのため現代の経済においては、すべての政策を事前に評価する必要がある。定量モデルは、潜在的な政策のコストと便益を示す証拠を提供することによって、この手続きに寄与するものである。

 

1.2. 政策分析におけるE3モデルとIAMの役割

 

データの改善とコンピュータの能力の向上によって、複雑な分析ツールの開発が可能となった。そのため、気候・エネルギー政策においてもコンピュータ・モデルは重要度を増してきている。大規模な気候モデルと統合評価モデル(IAM)は、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)による分析の中心となっており、現状維持の排出経路と、2℃目標内に留まる可能性のある排出経路を推定するものである。

 

気候・エネルギー政策が社会に及ぼす影響を評価するさい、国内総生産(GDP)や福祉、雇用などの指標の変化を推定するために、E3モデル (Energy-Environment-Economyモデル)が利用される[1]。この用語は必ずしも一貫して使われているわけではないが、本稿では、E3 モデルは本質的にマクロ経済モデルであり、そこに物理的な諸関係を付け加えたものと把握する。E3 モデルは、 IPCC の第 2 次評価報告書(IPCC, 1995)でも重点的に使用されてきたが、モデルの結果はこの十年でさらに重視されるようになっている。例えば、欧州委員会の「より良い規制ガイドライン(Better Regulation Guidelines)」(European Commission, 2015, p. 32)では、あらゆる政策評価について以下のように述べている:

 

可能であれば感度分析やシナリオ分析を実施して、分析の頑健性をテストすべきである。

 

ここではテキストに脚注が付けられて、利用可能な主要な定量的手法の開設が行われている。

「より良い規制のガイドライン」は、すべての影響が定量化可能なものではないと認めつつも、定量的な証拠はすべて評価することを求めている。それ以前のEUの「影響評価ガイドライン」では、さらに明確にこう書かれていた:

 

定量化や金銭評価が実現不可能な場合は、その理由を説明せよ(European Commission, 2009, p.39)。

 

気候変動政策が経済に与える影響が、その性質においても多種多用であることを考えれば、これらのメッセージは非常に明確である。欧州レベルで新規の気候・エネルギー政策が受け入れられるためには、そのマクロ経済的影響に関して、モデルに基づく証拠を提示せねばならないということである。

 

1.3. マクロ経済モデルの種類の違い

 

政策分析において経済モデルがますます重要視される一方で、多くの場合、マクロ経済モデルに対する政策立案者の理解がこれに追いついていない。これは残念なことである。なぜなら、モデルの根底にあるメカニズムを理解せずにモデルの結果を適切に解釈することはできないし、それらのモデルも、その種類によってメカニズムに大きな違いがあるためである。定量分析や経済学を修めていない多忙な政策立案者に、複雑なツールを理解させることの困難さは、現場では認識されている。これに対処するために、特別のトレーニングを提供するなどの努力がなされてきた。

 

気候・エネルギー政策のマクロ経済影響を評価するのに用いられるモデルは、大きく分けて2つのグループに分類される[2]

 

- 応用一般均衡モデル(CGE)は新古典派ミクロ経済学の仮定に基づく。これらのモデルは経済主体(企業や家計等)が個人的利益を最大化すべく、行動を最適化することを前提としている。有名な国際的CGEモデルにはGEM-E3 (Capros, Van Regemorter, Paroussos, & Karkatsoulis, 2013)GTAP (Hertel, 1999)Monash (Dixon & Rimmer, 2002)などがある。Handbook of Computable General Equilibrium ModelingDixon & Jorgensen, 2012)には、これらのモデルの働きが詳細に記述されている。異なるCGEモデルの結果を比較検討する「モデル比較研究」も存在し、その代表例がEnergy Modelling Forumの研究である(Weyant & de la Chesnaye, 2006

- マクロ計量モデルはポストケインジアン経済学に基づく。経済主体が最適化行動をとることを前提とせず、過去のデータと計量経済学的な方程式を用いて、人々の行動に関するパラメタ(定数や係数)を推定する(これによって「限定合理性」を考慮する)。よく知られた国際的なマクロ計量モデルとしては、E3MECambridge Econometrics, 2014)やGINFORSLutz, Meyer, & Wolter, 2010; Meyer & Lutz, 2007)などがある。

 

 本論文の目的は、モデル化のアプローチの違いを詳細に説明することではない[4]。むしろ説明の重点は、異なる種類のモデルが、2℃目標を達成するために必要とされる世界的な投資をどのように表現しているか、その表現がモデルの結果にどのように影響を与えるか、そしてその情報が意思決定者によってどのように解釈されうるか、にある。この問題と密接に関連しているのは、モデルが銀行や貨幣、金融部門をどのように取扱うかという問題である。

 

1.4. マクロ経済モデルにおいて、なぜ貨幣と金融の扱いが重要なのか?

 

2℃目標を達成するために、多額の投資が必要になることには疑問の余地がない。IEA (2014, p. 93) は、450ppm のシナリオでは、世界レベルで年間 2.4 兆ドル(2013 年価格)の「クリーンエネルギー投資」が必要だと試算した。この投資はすべて、何らかの形で資金調達される必要がある。一部は化石燃料資源開発への投資から転用される可能性があるものの、低炭素技術(再生可能エネルギーや原子力、エネルギー効率化など)はたくさんの投資が必要なため、排出量を削減する政策シナリオでは、エネルギー部門への投資を増やす必要があると考えられる。そのため、投資資金がどのように調達されるか、また、より多くの投資資源を動員できるかどうかが、低炭素社会への移行の経済学を理解する鍵となる。

 

しかし、金融に注目する理由は他にもある。金融危機とその後の不況で痛感させられたように、洗練されたマクロ経済モデルであっても、金融部門の取扱いはごく初歩的なものである[5]。非・主流派の経済学では、金融との関連性を高めたマクロ経済モデルを構築しようとする試みが行われてきた(Minsky, 1982に由来する)。しかしそれらは気候・エネルギー政策に適用できるほどには発展していない[6]。そのため、金融部門や銀行の取扱いは、主に仮定に基づいたものである。さらに、以下に示すようにこれらの仮定は、モデル化のアプローチの違いによって大きく異なっている。これらの理論やモデル化の現状をレビューし、モデルの種類の選択が政策分析の結果にどのような影響を与えるのか、また、どのような具体的な理由でそうなっているのかを、読者に認識してもらうことが、この論文の目的である。

 

モデル化の主なアプローチについては、第 3 節で説明する。しかしまず最初に、基礎となる理論と、それらがいずれの経済学派に関連するものなのかを説明する。第4節では、我々の分析から得られる、政策立案者のための教訓に注目する。第5節で結論を述べる。

 

 

2. さまざまな経済学派における金融部門と貨幣

2.1. はじめに

 

貨幣に関する前提条件の置き方が、マクロ経済モデルのアプローチにどのような影響をもたらすのかということが、この論文の要点である。モデルがどのように機能するかを理解するためには、基礎となる理論と哲学を理解しておく必要がある。本節では、最も重要な経済学派が金融をどのように取り扱っているかを概観する。

 

2.2. 新古典派やニューケインジアンにおける貨幣と金融

訓練を受けたすべての経済学者は、新古典派経済学の金融理論の中心にある「効率的市場仮説(EMH)」に精通している。EMHは、市場は「効率的」であり、価格体系は利用可能なすべての情報を正確に反映していると仮定している。合理的に行動するすべての個人が、ひとしく情報を入手できるといった前提は、おおむねすべてのCGEモデルの前提となっている。このような仮定のせいでEMH は、とりわけ世界金融危機を経た後は厳しく批判されてきたが、今でも経済学の教科書で教えられている標準的なアプローチである。

 

EMHは、エネルギー政策や気候政策のモデル化にも関係している。例えば、モデル化の多くのアプローチでは、最適な炭素価格が決定される仕組みにEMHが関連している。しかし次節で明らかにするように、貨幣供給量に関する新古典派の理論の方が、CGEモデルにおける気候変動政策がマクロ経済に与える影響(GDPや経済厚生への影響など)を決定する上で、はるかに重要である。新古典派理論では、貨幣供給量は中央銀行によって事実上決定されており、モデル化に際しては外生変数として扱われる。商業銀行や政府機関、民間機関からの資金需要が増加した場合には、金利がそれに応じて調整されるだけで、貨幣供給量に変化はない。

 

さらに、中央銀行が(名目の)貨幣供給量を増加させても、経済活動の実質変数には何の影響も及ぼさない。物価やインフレ率が自動的に、名目貨幣供給量に比例して調整されるだけである。これは、モデル化に用いられる最適化原理に合致したものである。経済学ではこれを「貨幣の中立性」と呼ぶ。

 

ニューケインジアンの動学的確率的一般均衡モデル(DSGE)は、CGEのアプローチに短期的な要素〔失業や物価調整など〕を加えたものであるが、貨幣に関しては、DSGECGEの性質はほぼ同じである。気候変動政策分析はふつう、長期的な結果に焦点を当てているため、DSGEモデルは気候・エネルギー政策の評価にはあまり用いられていない。そのため、本稿ではDSGEモデルについてはこれ以上掘り下げることはない。

 

2.3. ポストケインジアンにおける貨幣と金融

 

ポストケインジアンにおいて、貨幣は中心的な役割を果たしている。King2015, p. 18)が指摘するように、貨幣という用語はケインズの『一般理論』の完全な題名に登場する。Lavoie2015)の最近の教科書では、貨幣と金融は実物経済より先に説明されている。貨幣の様々な特性については、Barker (1996, Ch3, 2010)で詳しく説明されている。新古典派のアプローチとは対照的に、ポストケインジアンの経済学者は、経済の不確実性に深く根ざした「内生的な貨幣」[7]の理論に依拠している(Fontana, 2009, Ch5以降; King, 2015, p. 228)。このアプローチは、現代経済においては、貨幣のほとんどが商業銀行による新規の融資によって創造されるという事実に基づいている〔信用創造〕。銀行は、レバレッジ〔自己資本の何倍もの負債を抱えること〕が可能であるため、新規融資を行うために、現金を追加的に預け入れてもらう必要はない[8]

 

銀行は、新規融資を行う際に〔資産として融資債権を保有すると〕同時に、借り手の銀行口座〔銀行にとっての負債〕に、それに見合う預金の金額を書き込むことにより、新たな貨幣を生み出す。McLeay, Radia and Thomas (2014)は、それに関連するプロセスを非常に明確に要約している。これを要約すると、融資量(貨幣供給量)の少なくとも一部は、より一般的なマクロ経済の状況によって決定される(つまり銀行が、所与のリスク水準で有利なビジネスチャンスがあると判断するかどうかであるが、これも銀行の自信(コンフィデンス)に依存する)。商業銀行は融資を行うが、それは準備預金の規制が存在するか、どの程度の準備の保有が義務づけられるかに依存する。商業銀行が融資を実施するために必要な現金は、中央銀行が「求めに応じて」いくらでも発行すると想定されている[9]。先進国では一般に、中央銀行はこのようなことを行っているのである。

 

貨幣供給量は、もちろん短期において実質的な経済効果を現すが、長期において潜在的な影響を及ぼす可能性があるため、ポストケインジアンでは重要視とされる。物価は瞬時に調整されない(あるいは全く調整されない)ため、支出に必要な貨幣を供給することは、総需要の増加につながり、未利用の資源がシステムに引き入れられる。これこそが、「財政スタビライザー」が不況時に経済を支える仕組みである。ポストケインジアンの経済学者のうち何人かは、この仕組みによって、金利の引き下げが(総需要を刺激するような融資を銀行に促すことで)実体経済の刺激につながると論じており、量的緩和(QE)も同様の考え方に立っている。いずれにせよ、(将来の利潤獲得の見込みによって)需要が刺激されれば、銀行が融資に応じる必要がある。ニューケインジアンも積極的な金利政策に賛成であるが、ポストケインジアンは、不確実性や経路依存性などの特徴(短期的な動きが長期的な結果に影響を与える可能性があること)を強調する。

 

ポストケインジアンも、「ホリゾンタリスト(水平派)」と「ストラクチャリスト(構造派)」の2つのグループに分けられる(Pollin, 1991)。これらの名称には、貨幣供給曲線の形状に関する想定が反映されている(新古典派理論では、貨幣供給曲線は垂直で、固定的である)〔貨幣供給曲線は、縦軸に金利、横軸に貨幣量をとったグラフで、金利と貨幣供給量の関係を示したものである〕。〔ホリゾンタリストのいうように〕貨幣供給曲線が水平であれば、銀行は無制限に融資することができる。この立場では、金利は外生的とされるが、貨幣供給曲線が右上がりのバリエーションもいくつか提案されている。ストラクチャリストは、理論の複雑化という代償を払いつつ、現実世界の要因をさらに追加して、金利を内生変数としている(Palley, 2013)

 

重要な点は、実証的な証拠がポストケインジアンの想定を支持していることである。Anger and Barker (2015, p. 183)は多くの研究を挙げて、信用貨幣量を制御する上で、中央銀行の役割が限定的であることを示した。つまり、経済に対する貨幣供給の大部分は、商業銀行によって制御されているのである。Arestis and Sawyer (2011, p. 3)は、「マクロ経済の分析は、貨幣と金融を捨象した経済研究に還元することはできない」と結論づけている。はじめにで述べたように、この知見は、気候政策やエネルギー政策など、投資を促進するために設計された政策には特に重要である。

 

2.4. ポスト・シュンペータリアン(進化経済学派)における貨幣と金融

 

ポスト・シュンペータリアンは、ポストケインジアンの考え方を補完するものである。この学派は、金融機関による信用創造は、事業を発展させるための購買力を起業家に与えることが目的であるとしている。そのため貨幣の創造は、進化経済学派としても知られるポスト・シュンペータリアンの重要な構成要素である。Schumpeter1934, 1939)や、それ以降のこの分野の研究(Freeman & Louça, 2001; Perez, 2001)では、生産性の向上は起業家によって実現される。起業家は、わずかな資金とアイデアを用いて、生産性の向上とコストの削減を実現するための、「資源利用の新たな組み合わせ(new combination)」を発明して、生産プロセスを革新する。起業家が成功すれば、競争相手が追い付いて、経済全体の価格が下がってしまうまで、しばらくは独占利潤を獲得できる。長期的には、これが経済発展をもたらすのである。それを実行に移すために、起業家は金融機関に融資を求める。金融機関は、事業計画の信頼性、過去の成功例、経済に対する一般的な自信(コンフィデンス)に基づいて決定を下す。

 

 これはポストケインジアンの考え方と一致している。実際のところ、それは同じ理論のミクロ経済版である。これは、いくつかの理由から重要である。(1)融資はほとんどの場合、生産性向上や規模拡大のための活動が行われる前に起業家に提供され、それを実現させる要因となっている。(2)融資の決定はケースバイケースであり、その判断基準は、起業家の信用度や大義、そして銀行の既存のバランスシートのみである。そして、(3)融資の総額は、実施されている革新的な活動の量に、すなわち金融機関とって明らかに有利な儲けのチャンスの量に依存しているのである。

 

収益に対する銀行の期待や、起業家の実績に基づいて融資が提供されるならば、当然のことながら融資は、イノベーションの可能性や活動水準の高い企業に惹きつけられる。したがって、ミクロ経済学的な視点で金融を理解するためには、イノベーションのプロセスそのものをよりよく表現する必要がある。特に、革新的な活動はクラスター化する〔群れとなって生じる〕ことが知られており、それに関連する金融も同様である(例えば、歴史的な革新の大波については、Freeman & Louça, 2001; Freeman & Perez, 1988; Perez, 2001 を参照)。

 

 

3. モデル化アプローチの違いと金融部門および貨幣

3.1.はじめに

 

前節では経済理論の流派によって、貨幣や金融の取扱いが大きく異なることを示した。本節では、これらの理論がコンピュータ・モデルに応用される局面に注目する。本稿では気候・エネルギー政策分析に焦点を当てて説明しているが、巨額の投資を必要とする政策や、長期的な結果が関心事となる政策であれば、どんな政策についても同じようなことが言える。

どんなモデルも、貯蓄額イコール投資額というマクロ経済学的な恒等式を有しているが、そのバランスがどのように満たされるかについては、全く異なった解釈をしている。この点は重要である。まず、新古典派のCGEモデルにおけるプロセスを説明したうえで、ポスト・ケインジアンの大規模なマクロ計量モデルにおける貨幣と金融の役割を説明する。さらに、最も広く応用されている2つのモデリング・アプローチの間の主な差異を要約し、気候政策にとって重要な事例を示す。最後に、こんご応用される可能性のある、その他の概念的アプローチのいくつかについて議論する。

 

3.2. CGEモデルにおける貨幣と金融の役割

 

CGE モデリングのバイブルと広くみなされているWarlas(ワルラス)の本(Walras' Elements of Pure Economics, Walras, 1954) の第 6 [11] は、「循環と貨幣の理論(Theory of Circulation and Money)」と題されている。このタイトルは、CGEモデル上の経済における貨幣の役割を、すなわちモノやサービスの交換を可能とする手段としての役割を示唆している。この本の第28講と第29講では、この考え方をさらに拡張させている。例えば、財やサービスの即時購入を可能にするために消費者が貨幣を保有することなど、ミクロ経済学的な用語で貨幣の需給が説明されている(p.316)。生産者に関しても、317 ページで同様の説明が行われている。

Warlasは、現金保有の理由を説明したあとで、経済システムにおける貨幣の貸借の役割を説明し、貯蓄から投資へという明確な一方通行の流れを示唆している。

 

それだけではない......資本の定義は「雇用される固定資本財および循環資本財の合計であり、現物ではなく貨幣で、信用という手段で雇用されるもの」である......土地所有者や労働者、資本家が、返済された資本に対して、所得が消費を上回った金額を加算し、消費が所得を上回った金額を差し引いたものが、貨幣の形で貸し出すことができる日々の貯蓄量である(Walras, 1954, p. 317, 下線は原書から)

 

またWarlasは、貨幣供給量の変化の影響についても論じている(327-329 ページ)。これは、貨幣の価値は、貨幣が購入する可能性のある商品やサービスの価値によってのみ決定され、それゆえに「その量に反比例する」(Walras, 1954, p. 329)ということを前提としている。この命題を正当化する上で、価格調整に関する制限的な仮定〔価格や物価が瞬時に調整されるという仮定〕が必要だということを、ワルラスは19世紀においてすでに認識していた(p. 328)。彼はこの処置を「きわめて厳格(almost rigorous exactness)」だと述べていたが、これは前節の新古典派理論と合致するものである。

 

現代のCGEモデルにおける貨幣の扱いは、おおかたWalrasが述べたアプローチに基づいている。実質の貨幣供給量は固定されており、貨幣は交換手段として使用され、実質の経済変数に影響を与えるものではないのである。ハンドブック(Dixon & Jorgensen, 2012)では、貨幣に対する配慮がほとんどなされていない。「貨幣(money)」という単語を検索すると、まずMAMSモデル(Lofgren, Cicowiez, & Diaz-Bonilla, 2012)の説明が出てくる:

 

他のほとんどCGEモデルと同様に、MAMSは「実質」モデルであり、インフレは重要ではない(相対価格のみが重要である)。したがって独立の金融部門を導入しても、ほとんど実益はない(Logfren et al., 2012, p. 234)

 

次に、1-2-3モデル(Robinson & Devarajan, 2012)のための同様の段落を示そう。

 

それ[為替レート]は、商品市場のシグナルとして見ることができ、決して金融変数ではない。なぜならCGEモデルには貨幣や金融商品、資産市場が含まれていないためである (Robinson & Devarajan, 2012, p. 281)

 

G-Cubedモデルの説明(McKibbin & Wilcoxen, 2012)だけが貨幣について長めの記述を行っているが、これは不均衡モデルの文脈であることに注意しなければならない(すなわち、純粋なCGEではないのである)。他の検索結果(DSGEの記述を除く)によれば、貨幣はモデルの結果に影響を与えるものではなく、モデルの結果を示す計算単位として言及されている。

 

さらに広く調べると、金融部門を含むCGEがいくつか開発されている。その多くは、Bourguignon, Branson and de Melo (1989)に由来するもので、マクロ経済の安定性向上のための政策を評価するために利用されている。気候・エネルギー政策の分野では、資金調達が重要な課題であるにもかかわらず、応用例は非常に限られており、GEM-E3モデルの拡張版(Capros et al., 2013)がその唯一の事例である(European Commission, 2015))。依然として制限的な仮定が置かれることには留意すべきであるが、少なくともこれは今後のCGEモデルの改善方向を示唆しており、基本的なアプローチの進展は注目に値するものである。

 

3.3. ポストケインジアンのE3モデルにおける貨幣と金融の役割

 

ポストケインジアンのマクロ計量モデルの中で、地球規模のE3分析に用いられるものは、E3MEモデルとGINFORSモデルの2つしかない。両者が根拠とする、貨幣と金融に関する一般原理は同じものであるが、モデルの詳細については多少の違いがある。本稿は、繰り返しを避けるためにE3ME モデルだけを対象としているが、GINFORS モデルについても、ほとんどの記述や結論は同じであることに留意されたい。GINFORS モデルについては、Meyer and Lutz (2007)Lutz et al. (2010)でより詳細な説明がなされている。

 

E3MEは、総需要と物価水準の構成要素を決定する一連の方程式と、産業連関分析を組み合わせたものである。経済の基本的な枠組みを拡張し、エネルギー使用や原材料消費、温室効果ガス排出などの物理的フローが組み込まれている。モデルのパラメタは過去の時系列データから推定されている。2050年までの年次予測が可能である。

 

金融システムの役割は、現行の E3ME モデルマニュアル(Cambridge Econometrics, 2014)では直接的に説明されておらず、貨幣の取扱いはほとんど暗黙的なものである。かつては、このモデルでは銀行や融資、貨幣供給量について「ホリゾンタリスト」のアプローチ(前節参照)を採用していたが、最近になってアプローチが見直された。投資は、将来の生産水準に関する期待によって決定されるが、その期待は(ケインズに倣って)現在の活動に基づくものとされている。金利は(かつては外生的に与えられていたが)テイラー・ルール〔物価上昇率やGDP水準によって金利を決めるルール〕に基づいて設定され、銀行が融資可能な金額には制限がない。ただしこのことは、銀行がいくらでも自由に融資できることを意味しない。過去のデータから計量経済学的に推定されるモデルのパラメタには、過去の規制等の影響が織り込まれているためである。とはいえ総合的にみれば、経済状況が改善すれば、銀行の貸出額は増加するという意味合いとなる。このことは、投資を増やすためには、貯蓄が増えるか、他の分野での投資を削らなければならないということが、前提とされていないことを意味している[12]。言い換えれば、資本市場は投資のクラウディングアウトを強いるものではないのである。

 

この特徴は、何らかの均衡条件がモデルの中で達成されている場合には、重要ではないかもしれない。例えば、完全雇用に達すれば、新たな設備やインフラを建設するために追加的に雇用できる労働者は残っていないだろう。だが、このモデルが需要主導型の性質を持っているということは、通常は完全雇用ではないことを意味する。つまりE3MEには失業が存在するのである。したがって投資が増えれば、経済活動水準が全般的に向上する可能性がある。CGEモデルで一般的に得られる結果と、E3MEモデルから得られる結果に違いが生じる原因は、主にこの点にある。図1はそのプロセスを説明している。この図で重要なことは、投資需要から最終需要の他の構成要素(すなわち消費)への矢印〔マイナスの影響〕がないことである。つまり投資が増えると、理論的にはGDPと雇用が増える可能性があるということである。

 

 

1 E3MEモデルにおける金融経路の概念図

 

 

3.4. ポスト・シュンペーターリアンの見解:新技術への投資のために借り入れをする起業家

 

気候変動政策のモデル化は、技術的な「ボトムアップ」の視点から行われることが多いが、これは技術と金融、およびより広範な経済との間のつながりを研究する機会を与えてくれる。E3MEでは暗黙的に、産出の成長のための資金創出のプロセスが想定されているが、明示的には記述されていない。しかし技術変化の明示的なモデルを、投資と価格のフィードバックと結びつけることで、より明示的な分析が可能となる。さらにモデリングに際して、技術投資に資金を求める起業家をミクロレベルで明示的に表現することで、ポスト・シュンペータリアンの視点を明確に加味することができる。気候変動の緩和という文脈では、これは探求すべき重要な側面である(Lee, Pollitt, & Park, 2015; Mercure et al., 2015

 

これを詳細に行うための最初のツールは、Future Technology Transformations モデル(FTT)である Mercure, 2012; Mercure et al. 2014)。標準的なボトムアップ・モデリングにおいてはふつう、完全な社会計画者が存在するという想定が置かれるが、FTTはこれを、個々の投資家による技術の選択に基づく技術普及の進化モデルに置き換えた。FTTE3MEと連動し、起業家のミクロレベルの表現を提供しているが、これは他のモデルには欠けているものである。FTTE3MEを組み合わせたモデルでは、新技術を採用するインセンティブが政策によって投資家に与えられるシナリオにおいて、ベースラインと比較して投資が増加しても、他の分野での投資が圧迫されないことが示された。FTTE3MEを組み合わせることで、CGEとは全く異なるモデルが構築されたのである。すなわち、技術開発の資金調達のために銀行から融資が与えられ、その資金は、新しい資本の耐用年数にわたって消費者からの支払いによって返済される。CGEでは、マクロ経済的な費用が先に発生し、便益が後で発生することになるが、E3MEではマクロ経済的な便益が先に発生し、費用は後で負担されることになるのである(European Commission, 2016)。しかしまずは銀行の側に、投資家に融資する意欲がなければならない。つまり、投資が利益を生むという確信がなければならないのである。

 

3.5. モデルの特徴のまとめ - そして実際の応用例

 

表1は、上記の各セクションの重要な知見をまとめたものである。

 

1. 2種類のモデルの主な特徴

 

 

標準的CGEモデル

E3MEマクロ計量モデル

理論的背景

新古典派

ポストケインジアン

貨幣供給

外生的

内生的

資本市場クラウディングアウト

完全なクラウディングアウトあり

なし

価格調整

即時調整

時間をかけて調整

貨幣の中立性

貨幣は実質変数に影響しない

貨幣は実質変数に影響する

生産能力の制約

各時点の生産量は能力一杯

歴史的データに基づく暗黙の制約

労働クラウディングアウト

完全なクラウディングアウトあり

完全雇用に近づくにつれて強まる

その他のクラウディングアウト

完全なクラウディングアウトあり

成長率がトレンドを超えた際に短期的に

 

 

これらの特徴を説明するために、税収のリサイクル(所得税や法人税の軽減など)を伴う炭素税を例に挙げよう〔環境税制改革〕。政策が全体的に税収中立であれば、CGEモデルは実物資源の再配分を検討する(つまり部門別価格空間における新たな最適解を探索する)。だが分析の出発点〔環境税制改革を実施しない現状〕が経済の最適解と想定されているので、政策の導入によって各種の経済変数は必然的に悪化することになる。それに対してマクロ計量モデルでは、借入による追加投資が政策によって刺激される可能性がある。つまり負債総額の増加が総需要に寄与するのである(Keen, 2011, Ch. 12)。各時点の総生産の増加は、将来の総生産の増加に対する期待につながる。そして総生産が長期的に増加すれば、そこから当初の借入を返済してゆく。その結果、GDPと雇用が増加する可能性がある(see e.g. Barker, Alexandri, Mercure, Ogawa, & Pollitt, 2015)。

 

この例を、さらに電力部門に当てはめると、投資に必要な条件の第一は、炭素価格の有無に関わらず、将来的に電力供給が不足すると予想されることである。金融部門との相互作用は、不足分をどのように満たすかに関係している。すべての技術は先行投資を必要とするが、一部の技術(原子力や自然エネルギーなど)は他の技術よりも多くの投資を必要とする。銀行からの融資額は、これらの資本集約的な技術がどれだけ財務的に魅力的であるかによって決まる(これは、ほとんどのモデル化手法では「発電単価」を比較することによって決定される)。このように、それぞれの技術の相対的な魅力が、電力部門の投資総額に影響を与える。炭素税が課税される場合には、多額の投資を必要とする技術が優先される可能性が高まる。

 

したがって炭素税は、電力部門への投資が他の分野の投資を圧迫しない限り、投資活動の結果として生じる生産や雇用の創出という点で、短期的な実物経済にも重要な意味を持つことになる。しかし、いったん初期投資が行われると、相当額の負債が残る。その費用は電力料金の上昇を通じて、消費者に転嫁されることとなろう。この変革が、生産性の向上や国際競争力の向上につながったかどうかによって、長期的な経済パフォーマンスにプラスになることもあれば、マイナスになることもある[13]

 

3.6. こんご応用されうる他のモデリング・アプローチ

 

現在、政策立案の情報提供に最も利用されているのはCGEと、大規模なマクロ計量モデルである。しかしそれ以外の手法も開発されていることには、注意が必要である。これらのモデルは、現実世界の規模やデータに合わせてスケールアップされていけば、政策決定に利用される可能性がある。だがこれまでのところは、開発が進んでおらず、学者の研究のレベルに留まっている。

 

最近、とりわけ2008年の金融危機をきっかけに、ストック・フロー一貫(いっかん)モデル(SFCモデル)が注目されている。厳密に言えば、このモデルは金融システムに関する詳細な会計ツールであるが、ポストケインジアン理論との関連が深い。これらのモデルは、上述の大規模なマクロ計量モデルに欠落している表現を補うものである。Berg, Hartley and Richters (2015)は、このモデルの紹介として優れており、Caverzasi and Godin (2013)は、このモデルを歴史的な文脈の中に置いている。SFCモデルは単なる会計に限定されるものではなく、経済主体の行動に関する要素を含むことができる(see e.g. Safarzyńska & van den Bergh, 2017)。

 

これまでに開発された SFC モデルの多くは、一般的に政策評価に必要とされる詳細なセクター別の情報を欠くなど、まだまだ概念的なものである。しかしSFC モデルは、環境と財政の持続可能性に関連する高水準の問題を、例えばエコロジカル・エコノミストが提唱するプラス金利と定常経済の両立可能性を、分析するために使用されてきた(Berg et al., 2015; Cahen-Fourot & Lavoie, 2016)。SFCモデルは、物理的なストックやフローの会計処理にシステム・ダイナミックスが応用される方法と類似性があり、この2つのアプローチの間にはつながりがある(see e.g. Dafermos, Nikolaidi, & Galanis, 2016)。SFCモデルは、大規模なマクロ計量モデルの開発者も、CGEモデルの開発者も、いずれもが関心を持つべき研究分野である。

 

過去10年間で注目されてきたもう一つの研究分野は、エージェントベースモデル(ABM)である。多くの経済学者は、多数のエージェント(行為者)の行動を「代表的行為者」の仮定によって一括してしまうと、さまざまな経済問題の顕著な特徴を見逃してしまうため、好ましくないと考えている。ABMは、この問題を解決するための候補とされてきた。ABMの強みは、ミクロレベルとマクロレベルの行動を関連づけてくれることである。CGE/DSGEモデルでは、行為者は全て均質だという仮定を受け入れる必要があるのに対して、ポストケインジアンのモデルでは、ポストシュンペーターによる関連づけが必要となる。経済学者たちの間でABMへの関心が高まったのは、とりわけBeinhocker2007)がこのアプローチを提唱してからのことである。だが、最も有名なABMの応用例は金融に関するものであり、それよりはるか前に発表されたものである(Arthur, Holland, LeBaron, Palmer  & Tayler, 1997)。一方で、Dosi, Fagiolo, and Roventini (2010)Dosi, Fagiolo, Napoletano and Roventini (2013)Dosi, Fagiolo, Napoletano, Roventini and Treibich (2015)は、近代経済学の実物面と金融面に関する数多くの定型化された事実を、ABMを用いて再現することに成功したが、現実のデータを反映(カリブレート)していないため、ごくごく説明的な研究にすぎない。ABMを用いることの欠点は、エージェント間の相互作用に現実のデータが反映(カリブレート)されていないため、モデルの結果から何を学べるのかが、必ずしも明確ではないことである。そこには、相互作用の定義づけしだいで複雑性が現れ、それによって現象の本質が見えなくなるという問題も関係している[14]

 

いずれはSFCモデルとABMが、より広く利用されているモデルの限界のいくつかをカバーする可能性がある。例えば、マクロ計量モデルもCGE も、現在の形のままでは大企業の倒産や、座礁資産が金融やマクロ経済に与える影響を評価するうえで、十分な能力を備えていない。そのせいで、投資家の損失額の推定値が大きな幅をもち、「カーボン・バブル」の不確実性が大きくなっているのである。こうした欠陥に対処するためにも、別のアプローチが緊急に必要とされている(see e.g. Battiston, Mandel, Monasterolo, Schütze & Visentin, 2016)。

 

 

4. 政策立案者への示唆

 

ここまでで、本稿は以下のことがらを明らかにした: 

 

- マクロ経済モデルは、気候政策を含む様々な政策分野の経済的な費用と便益を見積もるために頻繁に使用されている

- 多くの気候・エネルギー政策(再生可能エネルギーやエネルギー効率化等の普及)には、多額の投資とそのための資金調達が必要である

- 金融部門の取扱いはモデル化の方法によって大きく異なり、最も広く用いられているCGEモデルでは特に、金融のしくみをきびしく制約する仮定がおかれている

 

金融システムや貨幣、そして投資に関する扱い方の違いは、ほとんどの場合には明記されていないので、政策立案者にとって、モデルの結果を正しく解釈・比較することは、困難な仕事となっている。

 

経済面での重要な結果は、以下の通りである:

 

CGEモデルでは、気候変動政策によって投資が増加しても必ず、金融的クラウディングアウト効果によって〔金利の上昇によって〕、別の経済部門での投資が減るか、現在の消費が減って貯蓄が増えるという結果につながる。限界収益が低下するため、このような投資の再配分はほぼ確実に、総生産にマイナスの効果をもたらすことになる[15]

 

対照的に、不均衡マクロ計量モデルでは、投資機会が商業的にじゅうぶん魅力的であれば、銀行が融資を増加させ、信用供給と広義の貨幣供給量が増加し、結果的に実物の経済活動が刺激され、総生産と雇用の増加につながる可能性がある。長期的には、融資の返済に伴う費用が発生する可能性があるが、総生産の上昇によって経済活動が刺激されるため、長期的な影響は必ずしもマイナスにはならないのである。

 

言い換えれば、金融部門の貢献度という観点では、CGE モデリングのアプローチは、政策立案者にとって最悪の結果を示している。経済的には(金融部門を含めてあらゆる分野で)資源の最適な利用が達成されている状況が出発条件とされるため、有限の資源が政策的介入によって再配分されると、マイナスの影響が必ず生じるのである。これは、現実世界の出発条件が最適点にどれだけ近いのかという問題を提起している。2016 年においては、その答えは「最適には近くない」であろう。景気後退や人口動態の変化、そして資本集約性の低い産業へのシフトが相まって、「世界的な貯蓄過剰(global savings glut)」(Zenghelis, 2011)の状態が続いているためである。ヨーロッパでは量的緩和(QE)が続けられているが、これは銀行の仲介なしに貨幣供給量を直接増加させようとする政策である。これは、現状は最適からは程遠いという立場を示唆している。しかし、これらはすべて短期的な投資を促進することのメリットを示唆するものであるが、気候政策のシナリオはふつう、2030年以降の期間を想定するものである。それほど長期のマクロ経済については、より様々な出来事が発生すると予測できる。

 

不均衡マクロ計量経済モデルによるシミュレーションは、ほとんどの国の金融システムの仕組みに適ったものであるが、これも決して完璧ではない。このモデルは最良のケースの結果を示すものではないが、一般に、排出削減の選択肢に対して金融が利用可能であると仮定しているため、楽観的な方に偏っている可能性がある。実際には、融資の決定権は銀行にあり、収益性の高い投資機会ではないと判断すれば、銀行はいつでも融資を拒否できる。したがって、これらの仮定がどれほど重要であるかを確認するために、(例えば、金利の調整や、ベースラインの失業率の変更によって)制約を加えて、これに対するモデルの感度をテストすることが望ましい。同様のテストはCGEモデルの場合にも可能であるが、不均衡の条件では、CGEモデル解くことは難しくなる。

 

こうした問題の解決策として考えられるのは、欧州委員会内で一般的に行われているように、気候・エネルギー政策を検証するために、両方のモデルを使用することである(e.g. European Commission, 2015)。これは政策分析のための追加資金を必要とするが、幅広い結果を得るという点でも、モデルによる結果の違いに関する議論という点でも有益であり、(貨幣や金融の扱いを含む)いくつかの重要な仮定について、政策立案者の理解を助けることにもなろう。

 

 

5. 結論

 

世界が2℃目標を達成するためには、相当規模の追加投資が必要になることは明らかである。国連気候変動枠組条約(UNFCCC)の近年の交渉で明らかになったように、この投資資金をどのように調達するかは、政策立案者にとって重要な問題である。

 

気候変動政策(およびそれ以外の政策分野)の費用と便益を評価するさい、政策立案者はしばしばマクロ経済モデルを用いて推計を行う。しかし本稿で説明したように、大部分の経済モデル〔CGEモデル〕は、投資資金を調達するには、他の経済分野の投資を減らすか、現在の消費(と厚生)の水準を落とすしかないという前提を置いている。この前提は、現実世界の金融システムの働きとは一致していない。このようなモデルにおいては、金利政策や量的緩和は何の効果ももたらさないのだが、これらの政策が現実に活用されていることからも、そのこと〔CGEと現実の金融との乖離〕が理解できるであろう。

 

それに代わる、ポストケインジアンの原理に沿った比較的少数のモデルは、限界がないわけではないが、実際の金融システムに近いものである。しかし、生産能力の問題については、モデル内で十分に表現できておらず、政策シナリオを現実的なものとする上で、モデル運用者の責任は重大である。

 

要するに政策立案者は、政策分析に使用する2つの主要なモデリング・アプローチの間に、重要な違いがあることを認識しなければならない。どちらのモデリング・アプローチもともに、金融システムをより明示的で明確に表現できるように、さらなる改善が必要であり、またそれは可能である。一見したところ、ポストケインジアンのモデルが優位であるように見える。CGEモデルは(モデルに金融セクターを組み込むための努力がなされてきたことは注目すべきであるが)、最適化や供給量固定に関する基本的な仮定のせいで、柔軟性を欠いているためである。他方で、SFC モデルやエージェントベースのモデルをさらに発展させて、正規の政策分析に貢献できるようにすることは、明らかに有益である。例えば、エージェントが債務を負う場合には債務不履行の可能性は重要であるが、マクロ計量モデルやCGEモデルのいずれを用いても、債務不履行の可能性や影響を評価することはできないのである。

 

どのような方法を選ぶとしても、政策の決定者や分析者は政策評価に際し、選んだモデルやその仮定が、どのような意味を持つかを意識すべきである。現時点でモデリング・アプローチを一つしか選べないとすれば、少なくとも金融に関しては、ポストケインジアン・アプローチの方がより適切と思われる。さもなくば異なる理論的裏付けを持つモデルを一緒に使用することで、想定しうる経済的結果の範囲を、より安全に特定することが可能となろう。

 

これらのモデルを用いて気候・エネルギー政策の影響を推定する上で、金融の問題は非常に重要である。そのため、モデル内での金融の取扱いを改善することが、今後数年間の優先課題と考えられる。それによって、気候変動政策やそれに関連する投資が世界経済全体に及ぼす影響を、より正確に表現できるようになるであろう。

 

脚注

 

1. これらは、主なマクロ経済変数(国民経済計算に関わる変数)の全てが内生変数であるようなモデルを意味する。例えば一般に、純粋なエネルギーシステムモデルはそれに該当しない。

2. この 2 つの定義の中間にあたるモデルも存在するが、そこでも金融の取扱いは一般に、新古典派アプローチに従っている。DICE のような小規模な統合評価モデル(IAM)もこのカテゴリーに入る。内生的に経済をカバーする大規模なIAMは、一般的にCGEモデルを組み込んでいるためである。それ以外のアプローチには次のようなものがある。システムダイナミクスモデル(本稿との関係ではマクロ計量モデルと構造が似ている)、ストック・フロー・一貫モデル(SFC)、そしてエージェントベースのアプローチである。SFCモデルとエージェントベースモデルについては、第3節で簡単に説明した。

3. ここで用語に関する問題が生じうる。我々はマクロ計量モデルを、ポストケインジアン理論から導き出された大規模モデルと定義している。このカテゴリーには、計量経済学的手法を用いてパラメタを推定したCGEモデルは含まれない。

4. Pollitt, Lee and Park2015)、Knopf et al.2013)、Scrieciu, Rezai and Mechler2013)は、気候政策の文脈でこれを拡張している。European Commission (2013)は、2℃目標を達成するためのEUの政策に関する応用例を示している。

5. 一般的な議論について詳しくはKeen (2011)を参照のこと。気候変動政策の文脈における最近の議論については、Anger and Barker (2015)を参照されたい。

6. 3節の SFC モデルの開設を参照。そのほか開発中の有望なツールとして、グローバル・ポリシー・モデル(see UN DESA, 2009)があるが、これは詳細な部門分割には触れていない。

7. ケインズ自身が内生的貨幣理論を支持していたかどうかについては、いくつかの議論があるが、これはDow (1997)を参照されたい。

8. レバレッジとは、預金を活用して複数の融資を同時に行う行為である。

9. 実際のところ中央銀行は、商業銀行の準備預金(中央銀行にとっての負債)の規模を拡大させている。

10. 技術革新は、企業利潤の増加につながるようなあらゆる形態の、投入要素や生産方法の再編成を意味するものと理解される。

11. e.g. “Warlas not Kenes is the patron saint of CGE models”, Robinson and Devarajan (2012), p. 282.

12. もちろん、投資資金は借入で賄われると仮定するのではなく、資金源を特定することも可能である。政策を直接評価する際には、通常、なんらかの前提条件が追加される(see e.g. European Commission, 2013)。例えば、エネルギー効率の高い設備への公的支出はふつう増税によって賄われる(それによって労働者に節約を強いる)と想定されている。電力部門による自然エネルギーへの投資は、発電所の耐用年数にわたって消費者の電気料金を値上げすることで賄われるかもしれないが、これもやはり借入を行って、発電所の耐用年数にわたって返済することを意味する。

13. 学習によるコスト削減や、分野横断的な学習のスピルオーバー効果によって恒久的に、電力システムの運転費用や人々の生活費がする場合には、経済発展に関するシュンペーターの記述は完全に実現されたことになる。

14. 言い換えれば、観測された現象を明らかにするためには、複合的な相互作用を特定するだけでは十分ではないということである。ABMの場合、入力データと出力データは明確かもしれないが、モデルが極めて単純なものでない限り、中間プロセスは一般に不透明である(as in Arthur et al., 1997)。

15. 2つの例外が考えられる。(これは標準的な慣行ではないが)気候の影響をモデリングに含めるとポジティブな結果が得られる可能性がある。また、CGEモデルのシナリオに経済上の歪みを除去することが含まれていれば(これもまた、少なくとも気候・エネルギー政策の標準的な手法ではないが)、プラスの結果が得られる可能性がある(e.g. Jaeger et al., 2011

 

謝辞

 

本論文の当初のバージョンに対してコメントをくださったPhilip Arestis, Terry Barker, Richard Lewney, Serban Scrieciu, Chris Thoung, Aiora Zabala, およびCambridge Econometrics C-EENRG のスタッフ、さらには 3 名の匿名の査読者に感謝します。誤字脱字の責任は著者にあります。J.-F.M.は、英国工学・物理科学研究評議会(EPSRC[フェローシップ番号EP/K007254/1]に謝意を表します。

 

 

ディスクロージャー・ステートメント

 

著者からは利益相反の可能性は報告されていない。

 

 

資金調達情報

 

本研究は、英国工学・物理科学研究評議会(EPSRC[フェローシップ番号EP/K007254/1]の支援を受けている。

 

 

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