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ポストコロナの日本に反緊縮グリーン・ニューディールが必要なのはなぜか?

この記事は、ハインリッヒ・ベル財団香港支局のHPに英語で掲載された論考の日本語版です。

財団の許可を得て掲載します。

 

Heinrich Boell Stiftung Hong Kong
Why Japan Needs an Anti-Austerity Green New Deal After Covid-19
28 July 2020 By Hasegawa Uiko

 

 

【概要】新型コロナウイルスは新自由主義の限界を明らかにした。もはや、新自由主義にすり寄った中道路線や、誤った健全財政主義では危機を克服できない。左派リベラルは、経済回復を約束するグリーン・ニューディールを打ち出し、気候危機と経済危機、そしてあらゆる不平等に立ち向かうべき時である。

 


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気候と経済の危機を軽視する日本

 2020年7月、コロナ危機に直面する日本で、現在の状況を象徴する3つの出来事が起こった。
ひとつめは、7月5日に投開票された東京都知事選挙で、現職の小池百合子知事が圧勝したことだ。ふたつめは、7月6日から続く大雨によって九州各地で土砂災害や大規模な洪水が起こり、執筆時点で63名が死亡、多くの人々が避難生活を余儀なくされていることだ。そしてみっつめは、7月7日に日本有数の大都市のひとつである大阪の6月の企業倒産件数が、全国最多の168件(前年同月のほぼ倍)だと発表されたことだ。
 東京都知事選で圧勝した小池氏は元々自民党の国会議員で、防衛大臣や環境大臣を歴任した。核武装容認的な発言や、関東大震災(1923)で虐殺された朝鮮人への追悼メッセージを取り止めるなど、タカ派として知られる。彼女は世界の主要都市による国際会議「U20」で、「2050年までに東京都の温室効果ガス排出を実質ゼロにする」との目標を発表したが、今回の都知事選の公約には「地球温暖化」や「気候危機」の文字は存在すらしなかった。選挙期間中は、現職としての公務以外の露出を避け、討論会にはほとんど参加せず、またTV局側も討論番組を放送しなかった。東京都知事選の主要候補はこの小池氏を含む4名で、このうち左派・リベラルに分類される候補は、野党統一候補の宇都宮けんじ氏と、昨年、「誰も見捨てない政治」を掲げて登場した新党・れいわ新選組党首の山本太郎氏であった。しかし気候変動対策や、コロナ経済対策として手厚い給付や補償を訴えた2人の票を足しても、小池氏の半分にも届かなかった。小池氏再選後、東京は最多感染者数を更新し続けている。
 日本は元々、災害列島として知られているが、近年は豪雨・台風・酷暑などの自然災害が頻発化・大規模化している。今回の豪雨災害もそのひとつで、私が住む京都市の北部も倒木や土砂崩れが発生し、電車が一部不通となった。災害の頻度や規模が増したのは、気候変動の影響であることはほぼ間違いない。しかし、日本で災害と気候変動との関連を指摘する報道は驚くほど少なく、多くの人がそのような認識を持っていない。また、今回の洪水の背景には、環境に配慮した治水事業などが、財政赤字を理由に行われて来なかったからだという指摘もある。
 大阪は、日本有数の商業都市として知られている。この大阪の地域政党として10年程前に発足し、現在でも圧倒的な支持を集めているのが日本維新の会(維新)で、国政でも26議席を有している。維新はキャッチフレーズの「身を切る改革」からも分かるように、典型的な新自由主義政党であり、公共サービス削減型の行財政改革を行ってきた。その結果、給付金の支給実施率は全国最低で、7月になって企業の倒産件数が全国最多という結果が明らかになった。なお、一時は収まったコロナ感染者数が増加しつつあるのは、東京都と同じ傾向である。

 


気候危機と格差・貧困の拡大

 この日本の状況は、ある意味で世界の縮図でもある。
 今、私たちが直面しているコロナ危機と気候危機という2つの危機の背景には、この数十年間、世界を席巻してきた新自由主義が存在する。公共サービスの削減や過度な競争と効率化、そして緊縮経済は、格差・貧困を拡大し地球環境を大きく破壊した。その結果、自然災害が頻発化・大規模化し、軍事的紛争で難民となる人々が増加し、世界に強い政治的・軍事的緊張をもたらしているのである。
しかし、今回コロナ危機に直面したことで、これまで財政均衡路線を取ってきた多くの国が、人的・経済的被害を拡大させないために、赤字を顧みることなく大規模な財政出動に踏み切り、各種減税を打ち出している。一方の日本は、昨年秋に10%に引き上げられた消費税は維持され、政府支出の金額は限定的であり、充分な補償がないままの自粛要請で倒産・失業が増加しているのである。
なぜ、日本ではこの状況下においても、気候危機対策や災害対策、経済対策を軽視する右派の政治勢力が、政権を維持し続けるのだろうか。
 その原因は、2009年にあった。


緊縮経済が左派リベラルの失墜をもたらした

 2009年8月、日本で多くの人が期待とともに1票を投じた。その結果、野党第一党であった民主党が圧勝し、戦後はじめて選挙による政権交代が実現した。私も民主党に期待し、1票を投じたひとりである。しかし残念ながら、その期待はやがて失望に変わった。
 長期間政権の座にあった保守的な自民党に比べて、民主党政権が、ジェンダー平等や多様性を尊重し、利権構造に切り込み、市民運動などに寄り添う姿勢であったことは疑いがない。加えて、気候変動対策にもより積極的だった。福島原発事故が起こったのは民主党政権下だったが、自民党政権であればもっと情報が隠蔽され、被害は拡大しただろう。民主党の失墜は、事実上初めての政権交代で期待が大きすぎたことや、マスメディアが一挙一動を取り上げて論評したこともあるが、何よりも致命的だったのはその経済政策である。
 当時の日本は、デフレを伴う長期不況が世界経済危機の影響でさらに悪化した頃であった。多くの若者が大学を卒業しても就職できず、非正規雇用で働くことを余儀なくされた。運よく正規で雇用されたとしても、苛酷な長時間労働を強いられることも多く、「過労自殺」が大きな問題となった。私もこの「就職氷河期世代」のひとりであり、友人たちの苦境を目の当たりにしている。ブラック企業でパワーハラスメントを受けたが、仕事を失う恐怖から長期間我慢した結果、心身を病んだ友人もいる。終身雇用制を前提とする日本では、一度非正規になるとそこから抜け出すことは容易ではない。
 民主党政権への期待は、経済が良くなるかもしれない、という期待でもあった。ところが、世界金融危機やギリシャ恐慌を目の当たりにした民主党政権は、「ギリシャは対岸の火事ではない」として、人々の期待を裏切り、財政均衡を重視して不況下で消費税増税を決定した。さらに、新自由主義的な貿易協定であるTPPへの参加を決め、原発輸出を奨励するなど、党としての理念に反するような迷走が目立つようになる。そして、2011 年3月11日に起きた原発事故が、致命傷となった。
 当時、政権交代に期待した人々は、期待した分だけ大きな失望を味わうこととなった。その結果として政治不信が進み、特に左派・リベラルへの期待は大きく損なわれた。無党派層が過半数を占めるなかで、相対的に支持を集めたのが、積極的な財政・金融政策(アベノミクス)を約束した右派の安倍政権(2013~)であった。原発事故後、日本では反原発の市民運動が盛り上がったものの、受け皿となるはずの左派リベラル勢力は支持を回復できなかった。アベノミクス批判に終始し、世界の左派のケインズ主義的経済政策に学ばず、積極的な財政・金融政策を忌避し続けたためである。
長期的な不況による格差・貧困の拡大は、人々から社会問題に関心を持つ余裕も失わせている。気候変動問題もそのひとつであり、関心を集めないトピックを日本のメディア、特にTVは報じないのである。
昨年、世界で最も注目を集めた人物のひとりであるグレタ・トゥンベリ氏は、国連の演説の中で「あなた方が口にするのは、お金のことや永遠の経済成長というおとぎ話ばかり。よく、言えたものですね」と述べた。彼女の言動は、気候変動への危機感と、対策の必要性を改めて私たちに認識させたという点で非常に重要であるが、少なくとも日本では、経済問題を軽視するような主張は、広く共感を呼んでいるとは言いがたい。
 必要なのは、経済的苦境にある人々に希望のビジョンを与える環境政策であり、それこそが反緊縮グリーン・ニューディール(以下GND)なのである。


反緊縮グリーン・ニューディールとは何か?なぜ必要なのか?

 これまで発表されたGNDは、発表の時期や、社会的背景、発表主体、そして基盤とする経済理論から、主に2つの波に分類できる(Park, Hasegawa and Matsuo 2020)。第1波は2008年から2009年にかけて発表されたGNDで、イギリスのNEF(New Economics Foundation)の政策集を発端に、国連、EU、韓国などが次々と「グリーン」を冠した政策を発表した。中でも有名なのが、バラク=オバマ大統領の公約である。第2波が2018年から次々と発表されているGNDで、米国民主党の連邦下院議員アレクサンドリア・オカシオ=コルテス(以下AOC)らが発表したものがその代表例である。どちらのGNDも、環境経済政策をリードして来た緑の党の影響を強く受けている。
 第2波のGNDは、それまでのGNDと異なり、反緊縮経済理論に基づいているのが大きな特徴である。反緊縮経済理論とは、これまで緊縮・財政再建論を支えてきた新古典派マクロ経済学(新自由主義)と対抗する、多くはケインズ経済学の現代的潮流である。長引く不況を背景に評価を高め、今回のコロナ危機を契機に世界で大きな注目を集めている。反緊縮の左派ニューケインジアンや現代貨幣理論(MMT)、公共貨幣論は以下のような共通見解を持つ。

・(ユーロ加盟国等の場合と異なり)通貨発行権を持つ政府が財政破綻することはない。
・課税は市中の購買力を抑えてインフレを抑制する手段であり、財政収支の帳尻をつけることに意味はない。
・不完全雇用の間は通貨発行で政府支出をまかなってもインフレは悪化しない。
・民間が貯蓄超過なら財政赤字は自然なことである。
・中央銀行は政府の子会社も同然であり、政府と中央銀行を「統合政府」として扱う。

 反緊縮GNDは、これまでの「常識」を覆す、環境政策と経済政策の統合策である。環境や再生可能エネルギー分野への投資により、短期的には雇用創出や格差の解消、景気刺激を図り、長期的には環境への負担を削減するための産業構造・社会構造の変革を目指す。また、変革には、雇用の公正な移行や、途上国、職業、所得、富、人種、ジェンダー、世代、などあらゆる不公正の是正も含まれる。主な財源を増税に求めず、化石燃料や原発に投資されていた民間資金のGNDへの投資を促し、場合によっては貨幣発行権に基づく財政支出(国債のマネタリー・ファイナンシング)を活用するほか、BIやJGPといった先進的な政策をも包含しているのである。


ポストコロナの反緊縮グリーン・ニューディールの可能性

 冒頭で紹介した東京都知事選では、実は左派・リベラルの2人の候補はGNDを公約に掲げていた。特に、れいわ新選組は積極的な財政・金融政策を掲げて就職氷河期世代の支持を集め、昨年の選挙で躍進した新党であり、GNDも反緊縮的なものだった。彼らは敗北したが、それはGNDの敗北を意味しない。なぜなら、2人の候補が掲げるGNDが、メディアで紹介されることはなく、ほとんど知られることがなかったからである。
 私たちはコロナ危機という未曽有の危機の中で、医療・介護・保育などのケア労働や、スーパーマーケットや飲食店で接客をする労働の重要性を改めて認識させられた。これらの産業は低炭素であるが、一般に低賃金で労働条件が悪い。そして大部分を女性が担っている。公的雇用や財政支出によって、ジェンダーの不平等や労働条件の格差を抜本的に変革することは、政府の役割である。
また、エネルギーと経済構造を「大規模集中・独占・トップダウン型」から、「地域小規模・分散ネットワーク・市民参加のボトムアップ型」に転換し、国有・公有・協同組合など企業所有形態の適正かつ多様なあり方を促進することで、企業支配からの脱却と市民によるコントロールが可能となる。そして、GNDが内包する、BIやJGPなどの先進的な政策は、日本にはびこる「過労自殺」や、生活保護のスティグマを払拭し、さらにこれまで顧みてこられなかった、家事・子育て・介護という女性が担ってきた無償労働の価値を問い直すものでもある。今後も、世界的な感染症の流行や、AIやロボットによって多くの雇用が失われることが予想される中、従来とは異なる発想で、労働や貨幣の価値を問い直し、経済・社会の構造を大きく変えることが求められている。
 さらに、エネルギー効率化を促進することで、エネルギー需要の全てを再生可能エネルギーで賄うことも容易となる。エネルギーの分散化によって災害のリスクも分散でき、感染拡大防止にも有効である。自動車は再生可能エネルギーの蓄電池となり、交通・運送産業も低炭素化できる。石油の使用量の激減に伴い、世界中で石油資本は低炭素資本へと転換するだろう。
従来の社会・経済構造の軸であった、グローバル化や新自由主義がこれらの危機に脆弱であり、限界を迎えていることは明らかである。今こそ日本でも、左派・リベラルが、これまでの財政均衡主義や、新自由主義にすり寄った中道路線とは違う、反緊縮政策を掲げ、支持を得る必要がある。そして、その中心こそ、環境と経済的困難の両方に真っ向から取り組み、持続可能で公平な新しい社会・経済のあり方を示すGNDなのだ。
 歴史を振り返ると、小氷河期などの気候変動とペストなどの疫病に直面することで、私たちの文明は大きく転換してきた。今、私たちは歴史の転換点を生きているということを自覚し、大胆な発想の転換を行うべき時がきている。

 

 

 

長谷川羽衣子(Hasegawa Uiko
上智大学大学院修士課程修了、地球環境学修士。
2012年 日本の緑の党(Greens Japan)の結成に参加し、共同代表に選出される。
2020年 緑の党の共同代表を退任。グリーン・ニューディール政策研究会設立、事務局長。
共著『原発ゼロを諦めない-反原発という生き方』(明石書店、2012)、共訳:ヤニス・バルファキス『黒い匣-密室の権力者が狂わせる世界の運命』(明石書店、2019)

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コメント: 1
  • #1

    宮咲アンナ (水曜日, 19 8月 2020 14:38)

    ほぼ同感です。ただ、気づいてて敢えて触れてないのかわかりませんが、1つだけ言いたい。
    もしまともに選挙してたら小池百合子が圧勝はあり得ない。ネットでもアンチばかりのイメージでした。女帝小池百合子の本の内容つまり経歴詐称は公職選挙法違反だし、七つのゼロの公約は実質全滅だから、質疑を避けて討論会も逃げてばかりで圧勝は嘘ですよ。
    https://youtu.be/RWFYkNv890c�63分の動画をTwitterで拡散してますが、都知事選は石原時代〜毎回自動集計機ムサシを使っての不正選挙ですよ。
    もし圧倒的に人気あった山本太郎氏が勝ってたら、15兆円の都債で倒産、失業者、ホームレス、自殺者、餓死等減らせました。
    国に対してもコロナを災害指定要求してくれてた。
    そもそも、元々MMTを理解してて野党時代は国がお金を刷ればいいと発言してた麻生太郎が与党になったら掌返しています。
    ユダヤ人やビルゲイツは、人口5億人まで減らす計画実施中で、日本は、財務省や厚労省や医師会はそれに乗っかりたい?コロナのワクチンにも不妊になる毒が含まれてるという動画が、与国秀行氏の動画などで沢山暴かれています。子宮頸癌予防やインフルエンザワクチンの副作用も動画によるとひどいですが、裁判は一切報道されません。
    私のTwitter固定やnoteでも拡散しています。
    安倍政権は○○政権、日本人はテレビウイルスに感染して騙され易く従順過ぎる国民性。デモさえ滅多に起きない。だから余計に政府に舐められています。このままでは日本人はどんどん国に○され壊れます。