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欧州議会規則:エネルギー価格の高騰に対処するための緊急介入について(朴勝俊訳・解説)

 

解説: 欧州連合のエネルギー価格高騰に対する緊急介入規則について

朴勝俊

2023/3/14

※ 調査日(32)の為替レートに基づき、1ユーロ=145円、1ドル=136円とする。

 

1.欧州連合のエネルギー価格高騰に対する緊急介入規則とは

表題の規則は2022106日付けで成立した。規則(regulation)とはEU法の一種で、欧州連合の立法機関(欧州閣僚理事会と欧州議会)で可決されればそのまま各加盟国に適用されるものであって、各加盟国の立法上の裁量権が強い指令(directive)とは異なる。今回の規則の内容について、詳しくは朴勝俊の仮訳を参照されたい。

この規則は、20219月以降の電力価格高騰に、とりわけロシアのウクライナ侵攻や、異常気象や技術的問題によるフランスの原発発電量の減少、および異常気象による南欧における水力発電量の減少による電力価格高騰に対処するものである(Von Richthofen et al. 2022; LevelTen Energy 2022; 吉沼2022)。

これらは、主に以下の骨子からなる:

 

(1)各加盟国におけるエネルギー節約の努力義務

(2)電力市場収入キャップと、それに伴う政府収入の活用

(3)エネルギー供給者の過剰利潤に対する義務的な連帯負担金と、その収入の活用

 

以下では、(2)(3)について解説を加える。

 

2.電力市場収入キャップ制と、それに伴う政府収入の活用

電力市場収入キャップ制とは、限界費用(主に燃料費)の低い電源に対して、売電による収入に制限を加えるものである。これを理解するには、電力卸売市場における「メリットオーダー」による価格形成を理解している必要がある(図1)。これによれば、取引所では限界費用の安い電源から順に落札され、最後に需要を満たした電源の限界費用が市場均衡価格となる。このとき、限界費用の安い電源は採算がとれる以上の過剰な収入を得ているために、それにキャップ(上限)を課すこととする。これによって、最後に需要を満たした電源の限界費用によって市場均衡価格が決まるという事実は変わらない。このことは電力の需給均衡の維持と電力系統の安定性に寄与する。もし意図的にこの市場均衡を下げるような措置をとれば、需要が供給を上回り、広域停電が起こる危険性が生じる。

そのキャップは180ユーロ/MWh0.18ユーロ/kWh26.1/kWh)である。対象は、風力発電、太陽エネルギー発電、地熱エネルギー発電、貯水池のない水力発電、バイオマス発電、廃棄物発電、原子力発電、褐炭火力発電、原油製品による火力発電、ピートによる火力発電であり、限界費用が高く、電力卸売市場において各時間帯のスポット価格を決める火力発電や石炭火力発電は対象外である。このキャップを下回る市場収入は発電者のものとなり、キャップ超える市場収入は加盟国政府のものとなる。キャップは2022121日から2023630日まで適用される。市場取引だけでなく相対取引も対象となる。こうした細部は各国の法律で変える余地がある。

 

 

1 EUの電力市場収入キャップ制の概念図(一律0.18 EUR/kWh

 

 出典:Rystad Energy (undated)

2 Lion Hirthさんの考え方の図(技術種別によって差異化)

 

 出典:Lion Hirth on Twitter, 2022/9/5


 

なおLion Hirthさんが202295日にツイッターで示したように(図2)、より詳細な技術別の上限設定の可能性があったが、EU180ユーロ/MWhが技術種別に関係なく一律のキャップを決められたのは、これらの技術間での価格競争のためである。

 市場キャップから加盟国政府が得た余剰収入は、以下のように、最終電力消費者の電気料金高騰の影響緩和と、負担軽減のために使用される(第10条)。

 

 (a)電力消費削減オークション等

 (b)送配電料金の引き下げ

 (c)原価割れで電力供給を行う供給者に対する保証

 (d)最終電力消費者(企業、家庭)の電気代の引き下げ

 (e)最終電力消費者(企業、家庭)の脱炭素化・再エネ・省エネ投資の促進

 

それらの設計の細部についても、各加盟国に相当の裁量権がある。

上記に類する収入キャップは、すでに一部の加盟国で、一部の技術に対して導入されている。例えばギリシャには0.85ユーロ/kWhの再エネ収入キャップがある(LevelTen energy 2022)。ほかには、フランスには原子力発電量の4分の1を固定価格でライバル企業に売却する義務がある(BBC 2023)。

 

3.エネルギー供給者の過剰利潤に対する義務的な連帯負担金と、その収入の活用

 これは例外的なエネルギー価格高騰による石油・ガス関連企業等のエネルギー供給者の過剰利潤(いわゆるタナボタ利益、Windfall Profit)を、義務的な連帯負担金として徴収し、広く分配・活用するものである。その使途は以下のように、家計や企業の電気代を抑えることや、省エネの促進、エネルギー集約産業の補助(再エネ、省エネ、脱炭素技術への投資が条件)、などである(第17条)。

 

(a) エネルギー価格高騰の影響を緩和するための、家計や企業に対する財政支援策。

(b) 需要削減オークションないしは入札制度によるエネルギー消費の削減や、一定量までの消費量に対する最終エネルギー消費者のエネルギー購入費の引き下げ、最終エネルギー消費者による再生可能エネルギーや構造的エネルギー効率化投資その他の脱炭素技術への投資の促進などの、財政支援策。

(c) エネルギー集約型産業の企業を支援するための財政支援策(ただし再生可能エネルギーやエネルギー効率化などが条件となる)。

(d) エネルギー自給率を高めるための財政支援策。

(e) 雇用保護や労働者の再教育等、エネルギー効率化や再エネ投資への融資など。

 

 

参考文献

BBC (2023) EDF: French energy giant posts worst-ever results, BBC NEWS, 17 Feb., 2023A
https://www.bbc.com/news/world-europe-64674131

Von Richthofen V. and Ferguson M. (2022) EU introduces revenue cap on power producers, Pinsent Masons, 2022/10/13
https://www.pinsentmasons.com/out-law/news/eu-verabschiedet-erloesobergrenze-fuer-stromerzeugung

LevelTen Energy (2022) How the European Commission’s Cap on Renewable Energy Could Impact the Industry, LevelTen Energy Blog, Market Insights, 2022/9/30

Rystad Energy (undated) Rystad Energy’s Post, LinkedIn, https://fi.linkedin.com/posts/rystad-energy_rystadenergy-energy-energymarkets-activity-6976186592835047424-pD0B
吉沼啓介(2022)EU理事会、電力需要削減策とエネルギー事業者の超過収入に対する措置で政治合意」『JETROビジネス短信』2022103

 

<法律文書> 

Council Regulation (EU) 2022/1854 of 6 October 2022 on an emergency intervention to address high energy prices, https://eur-lex.europa.eu/eli/reg/2022/1854/oj


ダウンロード
欧州議会規則(EU)2022/1854:エネルギー価格の高騰に対処するための緊急介入 について 朴勝俊仮訳(2023 年 3 月 14 日)
※DLしてご利用下さい
※転載される場合は出典を明記して下さい
欧州議会規則 EU 2022 2584 エネルギー緊急介入および電力市場収入キャ
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