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グリーン・ニューディール提案: 様々な規模の変革的気候政策を比較する(ボイル他著、朴勝俊訳)

Alaina D. Boyle*, Graham Leggat, Larissa Morikawa, Yanni Pappas, Jennie C. Stephens

米国マサチューセッツ州ボストン、ノースイースタン大学公共政策・都市問題研究科

翻訳・朴勝俊(2021/9/10ver.1)

 

 雇用創出を優先することで気候危機と経済的不公平に同時に対処するグリーン・ニューディール(GND)政策案は、世界各国・各自治体で、レベルの異なる様々な政府に向けて策定されている。最も注目されたのは2019年にオカシオ・コルテス下院議員とマーキー上院議員が議会に提出した米国の連邦政府のGNDである。それ以来、GNDの統合的な多部門的アプローチを共有する、複数の気候政策提案が登場している。現在まで、GNDフレームワークの諸提案の比較評価はほとんど行われていない。世界中の都市・地域・国家がCOVID-19パンデミックからの回復を計画し、経済的不公平の悪化や、人種的不公平、気候の激変に対応していく中で、環境・経済・社会問題を統合的アプローチにより同時解決するための政策を研究する必要性が、これまで以上に高まっている。この論文では、地方自治体から国際的規模まで、複数のレベルの政府にまたがる14のGND型政策案を検討し、その構造や詳細度、目標を比較してゆく。私たちはGNDフレームワークが、従来の市場志向ないしは人間行動志向の戦略よりも幅広く、気候変動を引き起こす複数の複雑な要因に立ち向かうための、新たな多面的な政策アプローチとして浮上していることを発見した。

1.はじめに


 世界各地で山火事やハリケーン、干ばつ、洪水、異常気温などの気候変動が深刻化する中で、現在予測されている人的・経済的損失を防ぐためには、革新的な政策によるシステミックな変化が必要であることが、ますます広く認識されている。気候変動と社会的公正、経済活動が相互に深く関連していることが広く認識されてきたことから、変革に焦点を当てた気候正義運動が高揚しており、それらはすべての気候政策の中核に公平性と社会的公正を据えることを提唱している。経済的な格差を悪化・永続させるような気候政策を提案するよのではなく、化石燃料ではなく再生可能エネルギーを用いる低炭素社会への移行によって最も影響を受けるコミュニティに、力を与え支援するという「公正な移行」に焦点を当てた新しい政策が、急速に登場している。これらの政策は、気候危機を悪化させるに至った社会的・経済的構造に明確に対処し、国内外の脆弱な人々の保護を優先するものである。

 これらの新しい政策案の中でも、最も顕著で影響力のあるものは、米国のグリーン・ニューディール(GND)決議である(H.R. 109 Recognizing the duty of the Federal Government to create a Green New Deal)。これは2018年に提案され、2019年2月に米国議会に提出された。14ページからなる2019年のGND決議は、温室効果ガス(GHG)の排出量と汚染の削減、雇用、インフラ、家計、健康、公平性に関する、分野の垣根を超えた大規模な国家目標を記述している。10年間の集中的な投資と総動員を求める提案の、幅広さと野心は、緊急の行動を求める最近の気候科学の報告書を参照して正当化されている。この決議は、気候変動が米国にとって直接的な脅威であり、環境や生態系、社会の不安定さを助長しているという主張に基づいている。したがって連邦政府には、職業訓練や雇用創出、インフラ、医療、住宅などを通じて、環境に配慮した健全な経済への移行を促進するべく、大規模な公共投資を行う責任と可能性があるとする。明確に1940年代のニューディールを連想させることによってGNDは、失業を緩和し、物理的なインフラを開発し、公共事業を実施するための公的な総動員における、大規模な米国連邦政府の投資の例を想起させている。ニューディールが米国社会にポジティブな結果をもたらしたことは広く認識されているが、提案されたGND(H.R.109)は激しい反対に遭った。そして、提案された政策ビジョンの経済的・政治的実現可能性について熱い議論が交わされてきた。

 リベラルな民主党員によって策定・提案されたGNDに対する世論は、一部の中道の民主党員も反発を見せたが、共和党が大規模な公共投資と気候変動対策の両方に反対しているため、主に党派に沿って二極化している。米国の主要メディアは党派性が強く、GNDが最初に提案された直後には、多くの共和党員がそれを厳しく批判したが、これはGustafson et al. (2019)が「Fox News効果」と呼ぶものである。このメディアによる批判的な報道が増えると、保守的な共和党員の間で、この政策への支持が急激に低下したという。

 連邦政府のGND決議をめるぐ激しい党派的な議論にもかかわらず、州・自治体・地域・部族を含む各レベルの政府においては、複数分野の統合的調整と投資の必要性を主張する、様々な新提案が急速に登場してきた。正義(justice)をテーマにした野心的な気候政策は他の国でも実施されているが、H.R.109は社会的・経済的・気候的な目標のための前例のない投資を、地域社会の公正な移行と、GHG排出量に応じた公平な気候成果とに、明確に結びつけた初めての提案である。米国の連邦レベルでの提案の、野心とインスピレーションに基づいて、こうしたGNDタイプの政策は、米国の都市からEUにいたるまでの複数レベルの政府において、環境・労働・インフラすべてを再生可能エネルギーでまかなう社会に移行するうえで、関連しあう諸方面への大規模な公共投資を、促進するために提案されている。幅広いコミュニティや運動団体、そして組織が、先住民の権利や人種的平等、そして労働者の権利を含む彼らの優先事項を主張するために、GNDのフレームワークを活用している。

 GNDのフレームワークを用いた提案の中には、具体的な経済的・政策的メカニズムを含んでいるものもあるが、最初の2019年の連邦政府のGND提案は、大まかな目標に焦点を当てており、政策設計と実施の具体的な内容は以後の検討に任されている。経済的・政治的・システム的な移行のフレームワークを統合した研究など、国レベルのGNDの実現可能性に関する新たな研究が増えている。この研究のほとんどは、COVID-19のパンデミックが始まる前に発表されたものであり、その後のCARES法 (新型コロナ対策法、Coronavirus Aid, Relief and Economic Security Act)を通じて米国の労働力に対して、前例のない連邦政府の投資が行われる前のものであり、米国における大規模な公共投資の必要性がこれほどまでに切実かつ広範なものになる前のものである。世界中の都市や地域が、失業率の大幅な上昇や、COVID-19で明らかになった社会的不平等の深刻化に直面している今、パンデミックからの復興は、雇用の創出、過去の不公平への対処、再生可能エネルギーへの移行の加速など、複数目標を同時達成するための公共投資を実施する、新しいメカニズムをもたらすものである。アメリカでもヨーロッパでも、GNDのフレームワークはパンデミックからの復興の一環であるとともに、気候危機に立ち向かうための重要なフレームワークとして明確に認識されている。とはいえGND型フレームワークを適用するすべての気候政策が、GNDという言葉を用いて、オリジナルのGND提案に依拠しているわけではない。例えば、バイデン政権は気候政策に対して「沈黙」アプローチを取っているように見える。導入以来H.R.109を妨げてきたような、偏ったメディア報道や政治的な反対を避けるために、彼らの気候政策をGNDに結びつけることを避けているのである。バイデンとハリスの政権がその野心的な気候計画を、明確にGNDを関連付けないように注意しているのとは対照的に、欧州委員会は2019年の欧州グリーンディールを、NextGenerationEUのCOVID-19リカバリーと統合している。

 米国内外の各レベルの政府でGND提案への支持が高まっているにもかかわらず、様々なGND型の気候政策提案の詳細なレビューと比較はなされていなかった。このギャップを認識し、本稿では14の著名なGND型提案の比較評価を行い、それぞれが提案する目標と実施メカニズムを分析した。この研究は、公平性に焦点を当てた変革的な気候変動対策を含む、あらゆる政策案の包括的レビューではないが、様々な文脈と規模の、一連のGND型政策案を検討したものである。注目された問題やその起源、アジェンダ設定のアプローチに関する類似点と相違点を論じている。気候政策の設計と実施に関して、全体論的で公正な未来への効果に注目し、COVID-19からの復興アジェンダとの相乗効果の可能性を検討したものである。

 

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