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フォーラム・ニューエコノミー(2024)「新しいパラダイム ベルリン・サミット宣言 -人々を取り戻すために-」(朴勝俊訳)

翻訳:朴勝俊(ぱく・すんじゅん、Park Seung-Joon)、2024530

Forum New Economy (2024) NEW PARADIGM, The Berlin Summit Declaration
– Winning back the people (with the press release), 29. MAY 2024

https://newforum.org/en/the-berlin-summit-declaration-winning-back-the-people/

https://newforum.org/wp-content/uploads/2024/05/EN_press-release_appeal_berlin_summit-1.pdf

 

フォーラム・ニューエコノミーは、気候変動や、不平等の拡大、グローバリゼーション、政府の役割の再定義といった大きな課題に対応する、新たな解決策と包括的なパラダイムを模索することを目的に、2019年にベルリンで設立された超党派のプラットフォームです。革新的な研究者を支援し、著名な専門家と実務家およびより広範な一般市民を結びつけます。


 

 

<プレスリリース>

フォーラム・ニューエコノミー(Forum New Economy

プレスリリース 2024 5 29

世界をリードする専門家たちが、大衆の高まる不信感に対する緊急対策を呼びかけた

 

50 名を超える著名な学者たちが共同アピールの中で、大義を重視した新たな経済政策の必要性を訴えています。各国政府は、積極的な産業政策や、不平等の是正、よりよく管理されたグローバリゼーションによって、自由民主主義に対する信頼の喪失に対抗すべきです。

 

ベルリン/ナウエン、2024529

自由民主主義に対する不信の波を受けて、世界の一流の学者たちがベルリンにおいて新しい政策展望を呼びかけました。フォーラム・ニューエコノミーがベルリン・サミット「人々をとりもどす(Winning back the People)」に際して発表したアピールは、「人類と地球への大きなダメージを回避するためには、人々の憤りの根本原因に早急に対処せねばなりません」と宣言しています。共同アピールによれば、各国政府は、人々のコントロールの喪失感を認識し、早急にそれに対処すべきです。そのために専門家らは、経済危機の早い段階で新しい企業を誘致し雇用を確保すること、富と所得の不平等を是正し、グローバリゼーションを改善することなどを提言しています。

署名者として、ハーバード大学のダニ・ロドリック教授や、ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンのマリアナ・マツカート、コロンビアの経済学者アダム・トゥーズ、ニューヨークの不平等研究者ブランコ・ミラノヴィッチ、トマ・ピケティ、元IMFチーフエコノミストのオリヴィエ・ブランシャール、デュッセルドルフのハインリッヒ・ハイネ大学のイェンス・スデクム、マサチューセッツ州アマースト大学のイザベラ・ヴェーバー、持続可能性の専門家マヤ・ゲペルといった著名な専門家が名を連ねています。

2024年という世界的なスーパー選挙年に、〔右派の〕ポピュリストはほぼすべての場所で、新たな躍進を遂げる恐れがあります。何が多くの市民をこれほどまでに不満にさせているのか、市民を取り戻し、民主主義への信頼を回復させるのに役立つことは何なのか、約80人の専門家がこの月曜日からベルリンとその周辺で開催されているフォーラム・ニューエコノミーの3日間のサミットで議論しました。

「このような無力感は、グローバリゼーションや技術革新に起因するショックが引き金となったもので、現在では気候変動や人工知能(AI)、インフレショックによって増幅されています」、「そして政府は、数十年にわたる拙速なグローバリゼーションや、市場の自動制御に対する過信、緊縮財政によって、こうした危機に効果的に対応する能力を失っているのです」とアピールでは述べられています。

今必要なのは、ただただ症状に焦点を当てたり、単純な答えを持っているふりをするポピュリストの罠に陥ったりするのではなく、人々の不信感の真の原因に対処する、新しい政治的コンセンサスです。

世界中で武力紛争の危険性が高まるなか、自由民主主義国家は再び、自らの価値を守り、直接の敵対行為を和らげる能力を示さなければならない、とアピールは述べています。市民と政府が再び主導権を取り戻そうとする試みは、多くの人々の幸福を促進するだけではありません。それはまた、危機を解決し、より良い未来を確保するための社会の能力に対する信頼を回復する助けにもなるでしょう。「人々を取り戻すためには、人々のためのアジェンダが必要なのです」。

 

ダニ・ロドリック、ブランコ・ミラノヴィッチ、マリアナ・マズカート、アダム・トゥーゼ、ローラ・タイソン、トマ・ピケティ、ガブリエル・ズックマン、イェンス・スデクム、イザベラ・ウェーバー、オリヴィエ・ブランシャール、マーク・ブライス、カトリーヌ・フィエスキ、グザヴィエ・ラゴー、ジャン・ピサニ・フェリー、バリー・アイシェングリーン、ローレンス・トゥビアナ、パスカル・ラミー、マーヤ・ゲペル、ストーミー=アニカ・ミルドネ

 

 

 <宣言>

新しいパラダイム

ベルリン・サミット宣言 - 人々を取り戻すために

2024529

 

自由民主主義国家はいま、人々の不信の波に直面しています。人々の大多数に奉仕し、私たちの未来を脅かす複数の危機を、解決する能力に対する不信です。これは気候変動から、耐え難い不平等、そして大規模国際紛争に至るまで、真のリスクに対処せず、怒りを利用する危険なポピュリズム政策の世界へと、私たちを導く恐れがあります。人類と地球への大きなダメージを回避するためには、人々の憤りの根本原因を早急に突き止めなければなりません。

 このような不信感が拡大している原因のかなりの部分は、自分自身の生活や社会変化の道筋をコントロールできなくなった、またはそのように思えるという実感が広まったせいだという証拠が、数多くあります。このような無力感は、グローバリゼーションや技術革新に起因するショックが引き金となったもので、現在では気候変動や人工知能(AI)、インフレショックによって増幅されています。

信頼を取り戻すということは、こうした能力を再構築するということです。私たちは決定的な答えを持っているとは言いません。しかし、これほど不信が生まれたのはなぜなのかについての、いくつかの基本的な教訓に基づいて、政策を再設計・強化することが極めて重要であると考えます。そのためには、以下のようなことが必要です。

 

経済効率を何よりも優先する政策や制度から、繁栄の共有と質の高い雇用の創出に重点を置く政策や制度へと、方向転換すること

・ 新産業を支援することによって、地域の差し迫った混乱に積極的に対処し、イノベーションを多くの人々の富の創造に向けるような、産業政策を策定すること

・ 産業戦略を、産業セクターに補助金や融資を与えてその現状を維持させるのではなく、温室効果ガスネット・ゼロのような目標達成に向けた投資やイノベーションを支援するものとすること

社会的弱者を保護し、気候変動政策で国際協調するというニーズと、自由貿易のメリットとのバランスをとりつつ、決定的な利害については自国でコントロールできるようにする、より健全なグローバリゼーションの形を設計すること

・ 金融市場の自律性や相続によって強められている、所得と富の不平等に対処するために、低賃金の人々の力を強化し、高所得や富に適切に課税し、あるいは社会的相続のような手段によって、平等な初期条件を確保すること

合理的なカーボンプライシングと、炭素排出削減のための強力なポジティブ・インセンティブおよび野心的なインフラ投資とを組み合わせた、気候政策の再設計

・ 途上国が将来への展望を損なうことなく、気候トランジションおよび緩和・適応策に着手できるように、必要な資金と技術的資源を確保すること

・ 共同的行動と市場との新たなバランスを確立して、自滅的な緊縮財政を避けつつ、効果的なイノベーション政府に投資すること

・ 高度に寡占化した市場において、市場支配力を減じること

 

 私たちは今、重要な時期を生きています。市場だけでは、気候変動を食い止めることも、富の分配の不平等を減らすこともできません。トリクルダウンは失敗しました。対決的な保護主義への回帰か、人々の懸念に応える新たな一連の政策か、私たちは今その選択に直面しています。新たな産業政策と、良質な雇用、より良いグローバル・ガバナンス、そしてすべての人々のための気候政策を、どのように設計するかについては、画期的な研究結果がたくさんあります。今、それらをさらに発展させ、実践していくことが重要です。必要なのは、単に症状に焦点を当てたり、単純な答えを持っているふりをするポピュリストの罠に陥ったりするのではなく、人々の不信感の真因に取り組む新しい政治的コンセンサスです。

 地政学的な利害の対立により世界中で武力紛争の危険性が高まる中、リベラルな民主主義国家は、その前提として、自らの価値を守り、直接的な敵対関係を解消する能力を示す必要があります。

 人々と政府を運転席に戻す試みは、多くの人々の幸福を促進するだけではありません。それは、危機を解決し、より良い未来を確保するための社会の能力に対する信頼を再び育む助けとなるでしょう。人々を取り戻すためには、人々のためのアジェンダが必要です。無駄な時間はありません。

 

20245

 

 

署名者 Signatories

ダニ・ロドリック Dani Rodrik, Harvard University

ブランコ・ミラノビッチ Branko Milanovic, City University New York

マリアナ・マッツカート Mariana Mazzucato, University College London

アダム・トゥーズ Adam Tooze, Columbia University

ローラ・タイソン Laura Tyson, UC Berkeley

トマ・ピケティ Thomas Piketty, EHESS

ガブリエル・ザックマン Gabriel Zucman, UC Berkeley

イエンス・ズユデクム Jens Südekum, Heinrich Heine University of Düsseldorf

イザベラ・ヴェーバー Isabella Weber, University of Massachusetts Amherst

オリビエ・ブランシャール Olivier Blanchard, PIIE

マーク・ブライス Mark Blyth, Brown University

カテリン・フィーシ Catherine Fieschi, European University Institute

ハビエル・ラゴット Xavier Ragot, OFCE

ジャン・ピサニフェリー Jean Pisani-Ferry, Sciences Po/Bruegel/PIIE

バリー・アイケングリーン Barry Eichengreen, UC Berkeley

ローレンス・トゥビアナ Laurence Tubiana, European Climate Foundation

パスカル・ラミー Pascal Lamy, Institut Jacques Delors

アン・ペティファー Ann Pettifor, Prime Economics

マヤ・ゲペル Maja Göpel, Mission Wertvoll

ストーミー=アニカ・ミルドナー Stormy-Annika Mildner, Aspen Institute Berlin

アヒム・トゥルーガー Achim Truger, German Council of Economic Experts

アナトレ・カレツキ Anatole Kaletsky, Gavekal Research

アンケ・ハッセル Anke Hassel, Hertie School

アンロール・ドラテ Anne-Laure Delatte, Université Paris-Dauphine

アントネラ・スティラティ Antonella Stirati, University of Roma Tre

ベティナ・コールラウシュ Bettina Kohlrausch, Institute of Economic and Social Research

ビル・ジェーンウェイ Bill Janeway, Cambridge University

クリスティアン・ブロイア Christian Breuer, German Council of Economic Experts

クリスティアン・カストロップ Christian Kastrop, Global Solutions Initiative

ダリア・マリン Dalia Marin, Technical University Munich

ドロテア・シェーファー Dorothea Schäfer, DIW Berlin

エリック・ロネルガン Eric Lonergan, Author/Economist

エリック・モネEric Monnet, EHESS

ヘレネ・シューベルト Helene Schuberth, Austrian Trade Unions Confederation

ヘニング・フェペル Henning Vöpel, Centrum für Europäische Politik

ジェイ・ポクリントン Jay Pocklington, INET

ジェロム・クレール Jérôme Creel, OFCE

ジョナス・メクリング Jonas Meckling, University of California, Berkeley

マルティナ・リナトラス Martyna Linartas, Ungleichheit.info

マイケル・ジェイコブズ Michael Jacobs, University of Sheffield

ペーター・ボフィンガー Peter Bofinger, University of Würzburg

プラカシュ・ロウンガニ Prakash Loungani, John Hopkins University

リチャード・マクガヘイ Richard McGahey, Schwartz Center for Economic Policy Analysis

ロベルト・ゴルト Robert Gold, IfW Kiel

ロバート・ジョンソン Robert Johnson, INET

ロアン・サンドゥ Rohan Sandhu, Harvard University

サンデル・トルドワ Sander Tordoir, CER

セバスティアン・ドゥリーン Sebastian Dullien, IMK

シャヒン・ヴァレ Shahin Vallée, DGAP

テレサ・ギラドゥチTeresa Ghilarducci, The New School

トマス・フリケ Thomas Fricke, Forum New Economy

トレヴォア・サットンTrevor Sutton, Center for American Progress

 

ウィリアム・ハイネス William Hynes, UCL


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