マサチューセッツ大学アマースト校経済学部ワーキングペーパー2023
Weber, Isabella and Evan Wasner (2023) Sellers’ Inflflation, Profifits and Conflflict: Why can Large Firms Hike Prices in an Emergency?, University of Massachusetts Amherst, Economics Department Working Paper Series, 2023
Isabella M. Weber*, University of Massachusetts Amherst
Evan Wasner, University of Massachusetts Amherst
翻訳:朴勝俊(2023年6月11日)
※図表に関しては、PDF版をDLしてご覧下さい
※転載される場合は出典を明記して下さい
'...a couple recent force majeures in the industry ...[are] making price environment even more conducive'.
「産業界におけるいくつかの不可抗力によって、価格環境がより伝達的になったのです」
(ロリ・コーク、デュポン・ヌムールCFO )
要約
インフレはマクロ経済の現象であり、いつだってマクロ経済の引き締めによって対処しなければならないというのが、支配的な見方である。これに対して我々は、米国のCOVID-19インフレは、ミクロ経済的な原因によるものであり、市場支配力を持つ企業の価格引き上げ能力からくる「売り手インフレ」であると主張する。このような企業は価格決定者であるが、競合他社が同じ行動をとると予想される場合にのみ、値上げに踏み切る。それには部門全体のコストショックや供給のボトルネックによって、彼らの間に暗黙の了解が成立する必要がある。我々は、寡占市場における価格設定に関する長年の文献をレビューし、決算報告書や企業レベルのデータを調査して、三段階のインフレプロセスの枠組みを導出した。すなわち (第1段階) コモディティ市場のダイナミクスやボトルネックによって、システミックに重要な上流部門における価格上昇がタナボタ利益をもたらし、さらなる値上げの刺激となる、(第2段階) コスト上昇から利益を守るために、下流部門は値上がり分を転嫁するが、ボトルネックによる一時的独占の場合にはさらに値上げ圧力を増幅させる、(第3段階) 労働者は賃金闘争の段階で実質賃金の低下を防ごうとする、というものである。このような売り手インフレによって一般的な物価上昇がもたらされる。これは一過性のものかもしれないが、一定の条件下では持続的なインフレスパイラルにつながる可能性もある。政策は、インフレの発生を防ぐために、最初の刺激段階での価格上昇抑制を目指すべきである〔その手法として備蓄や価格規制、タナボタ利益課税などがある〕。
JELコードD21、D22、D43、E31、E53
キーワード:価格設定行動、市場支配力、賃金闘争インフレ、利益、金融政策
※翻訳文の中の〔括弧〕内は訳注および訳者による補足である。
* 問い合わせ先: imweber@umass.edu.
ベルグルーエン研究所からのフェローシップに感謝します。またBenjamin Braunさんや、Nancy Folbreさん、James Galbraithさん、André Kühnlenzさん、Lucas Teixeiraさんたちのご助言やお話は本論文の参考となりました。Gregor Semieniukさんは、本論文の様々な段階で批判的なご意見をくださり感謝しています。Jesús Lara JáureguiさんとEsosasere Osundeさんのご支援に感謝します。ありうべきすべての間違いは私たち自身のものです。
1. はじめに
2021年第2四半期に消費者物価指数の年間上昇率が4.8%に上昇したのに伴い、米国の非金融企業の税引き後の利益率は新記録を更新して13.5%まで上昇し、戦後インフレ期の1947年の上昇期を上回った(図1、p.24)。しかし最近まで、利益爆発の最初の兆候と、急激な物価上昇との関連性を指摘することは異端視されていた[1]。ほとんどの経済学者は、1970年代に主流だった解釈に基づいてインフレの再来を考えてきた。すなわちインフレはマクロ経済の力学によるものだというのである。これについて、一方では、限られた生産能力に対して総需要が過剰なのだという(ニュー)ケインジアンの解釈が、他方では、少数の商品を追いかける貨幣が多すぎるのだという古典的なマネタリストの想定が付け加えられた(Weber et al., 2022)。どちらの観点においても、コストが何らかの役割を果たすとすれば、それは単に労働市場の逼迫に伴う賃金インフレの問題とされた。インフレに対するこのような考え方だと、企業の価格設定力や利潤には関係がないことになる。しかし実際には、供給のボトルネックによって引き起こされ、利益の急増と並行して起こった戦後インフレの方が、歴史的前例としては近いと思われる。
利益の急増と物価上昇との関係を示す証拠は増え続けており、逆に総需要超過や賃金物価スパイラルの指標は弱い(Bivens, 2022a, b; Glover et al, 2023; Stiglitz and Regmi, 2022)。欧米の主な中央銀行の責任者たちは、今や利益がインフレに寄与したことを認めている[2]。Konczal and Luisiani (2022)は、2021年に米国で様々な収益性指標が未曾有の急騰を示したことを記録している。2020年第3四半期から2022年第2四半期にかけて発生したインフレでは、GDPデフレータ〔物価指数の一種〕の14.1%の上昇のうち、粗営業余剰で近似した利益が9.4%を占めており、賃金は4.7%に過ぎない(図2)。インフレを背景とした利益の増加は米国だけの現象ではない。例えば、ドイツにおける値上げに関する研究でも、一部のセクターで企業が利潤を増やすために値上げをしたことが示されている(Ragnitz, 2022)。
このことは、価格の急騰と利益の急増との一致を、どのように説明するかという問題を提起している。企業の市場支配力がその候補として挙げられている。しかし、COVID-19のインフレ期における利益の増加は、それまで数十年にわたって利益やマークアップ、企業集中が高まってきたのに、物価が著しく安定していたことを背景として起きている(De Loecker et al., 2020)。市場支配力と利益の急増とを結びつけるには、なぜ大企業が、それ以前の数十年間は価格を安定させてきたのに、パンデミックの状況下で価格を引き上げたのかを検証する必要がある。
本稿は、市場支配力を持つ企業による価格設定の観点から、インフレのダイナミズムを概念化することを目的とした探索的研究である。まず、不完全競争や管理価格、制度派経済学に関する古くからの文献や、企業が投資家に対して四半期ごとに決算を発表する「四半期決算説明会(qurterly earnings calls)」を参考にして、市場支配力を持つ企業による価格設定の原理を再考することから始める。これは、企業の決算説明会の記録を現在のインフレを研究するための貴重な資料として確立した他の最近の例(Dayen and Mabud, 2022; Mabud, 2022a, b; Owens, 2022a, b)に続くものである[3]。我々は、市場支配力を持つ企業はふつう価格を下げることを控え、他の企業が同じ行動をとると期待できる場合にのみ価格を引き上げると主張する。正式なカルテルや価格リーダーシップの規範の他に、値上げの触媒となる暗黙の合意が存在する可能性がある。すべての企業は利益率を守りたいし、他の企業も同じ目標を追求していることを知っているので、他の企業が追随してくると見込んで、価格を上げることができるのである。企業がこの値上げ戦略を取りたくない場合にも、金融投資家に株を売られることを懸念して、このような暗黙の合意に従わざるを得なくなるかもしれない。また、ボトルネックは一時的な独占力を生み出し、利益を守るためだけでなく、利益を増やすためにも価格を上げやすくするであろう。
このことは、市場支配力は一定ではなく、供給環境が変わるとダイナミックに変化しうることを示唆している。サプライチェーンのボトルネックやコストショックが公に報告されることで、値上げの正当性が生まれ、消費者も値上げ受け入れるようになり、需要の価格弾力性が低下すると考えられる。一方、現金給付によって一部の消費者は、それがなかった場合には支払えなかったような価格にも対応できるようになった。このような一時的独占状態や暗黙の合意がなければ、企業は利益率を上げるためにコストを下げなければならない。これは、パンデミック以前の数十年間に行われていたことである。
我々はこのインフレを、ラーナー(Lerner, 1958)が企業の価格決定によって引き起こされる「売り手誘導型インフレ」と呼んだものによって概念化している。ラーナーはこう観察した。「製品の対価として要求される価格の中では、賃金の要素と利益の要素との間には、本質的な非対称性はない」。賃金上昇によるインフレと同様に、企業が利益を守ろうとしたり増やそうとしたりすることによって、売り手主導のインフレが引き起こされる可能性がある。インフレの主役が利益なのか賃金なのかは、経済における力関係によって決まる。
このような価格設定の原則に基づき、米国の大企業の決算報告書を調査して、COVID-19パンデミック後のインフレのダイナミズムを段階的に分析する(図3参照)。まず、物価が安定していた時期から、上流部門での価格ショックの刺激がサプライチェーンを通じて伝播し、下流企業が利益率を守るために値上げをしてコスト上昇に反応する、という流れに移行する過程を描く。このようなコストショックの伝播に加え、一部のセクターにおいては、とりわけ供給側のボトルネックや製品固有の需要ショックに直面した企業は、利益率を高めるために十分な値上げを行い、結果としてコストショックの増幅をもたらす。労働者はそれに対して賃金闘争段階で反応し、実質賃金を守ろうとする。しかし、商品価格ショックや暴利、利益確保行動によって引き起こされた売り手インフレという文脈では、賃金闘争はインフレの原因ではなく結果である。さらに現在のアメリカにおける労働組合の弱さを考えると、この賃金闘争段階のインフレが、古典的な賃金闘争インフレの概念(Rowthorn, 1977)のような賃金物価スパイラルを引き起こす可能性は極めて低い。労働者はパンデミック前の国民所得シェアを取り戻すために奮闘しているに過ぎず、それを上回ることはない。したがって、例えばブランシャール(Blanchard, 2023)は賃金闘争インフレから類推して、インフレを抑制する理想的な方法は労働者と企業の間で価格と賃金を固定する交渉を行うことだと主張しているが、それに対して我々は、価格と利益の急上昇を刺激段階で制御し、伝播と増幅を防止するための的を絞った介入を主張している。
我々は3段階のインフレ・ダイナミクスを、インフレに対する利益と賃金の寄与の経験的順序に対応させつつ、決算報告書から記述的な証拠を提供して、我々の議論を説明する。我々はさらに、利益に対する価格と販売量の寄与を分析するために、四半期ごとの決算報告書から企業レベルの定量的データを手作業で集計した(付録を参照)。これにより、価格設定の変化を追跡し、個別企業レベルでの利益額や利益マージン率と比較することができる。先行研究では、パンデミックの以前と最中に、分布の上位4分の1の企業が、特に上位10分の1の企業が、利益の増加を牽引したことが示されている(Konczal and Lusiani, 2022, De Loecker et al. 2020)。これは大規模な「スーパースター」企業の重要性が増していることの反映である(Autor et al.2020)。我々は、インフレに対する直接的・間接的な寄与が突出していることから、システミックに重要〔経済全体にとって重要〕だと指摘されているセクターからそのような「スーパースター」を選んで注目する(Hockett and Omarova, 2016, Weber et al. 2022)。このように、我々の企業サンプルは少ないが、重要なケースに焦点をあてている。
我々の分析は、最近の議論で浮上した「一過性」インフレと「持続性」インフレの二元論を横断するものである。我々が開発した3段階プロセスの枠組みに基づけば、インフレの持続性は、企業が初期の刺激にどう反応するか、労働者が実質賃金の損失にどう反応するかに依存する。2022年末にむけてインフレが緩和するにつれて、増幅よりも伝播の方が優勢になっているようである。労働組合の弱さを考えると、現在のインフレは広範なものであるが、さらなる供給ショックがない限りは減衰する可能性が高いと思われる。しかし我々の分析は、現在の米国の状況においては、このような「一過性」の性質があるにもかかわらず、売り手インフレが消えるまでにはかなりの時間がかかり、経済の不安定性と生活費の危機を助長する可能性があることも示唆している。
さらに、別の具体的な条件のもとでは、売り手インフレが持続的なインフレに発展する可能性もある。価格設定の軌道は普遍的な法則で決まっているわけではなく、経路や状況に依存する。気候変動やパンデミック、地政学的緊張という緊急事態が重なる時代には、ショックが再発する可能性が高く(Weber et al., 2022)、広まっているインフレのダイナミズムを強化しかねない。一過性のインフレでさえ深刻な害を引き起こすが、それが再発する可能性があるということは、刺激ショックが現れたときにリアルタイムで対処するために、政策ツールを開発しておく必要性を示唆するものである。
本論文は以下のように進行する。次節では、寡占市場(集中市場)における価格決定原理に関する我々の理解を整理する。第3節では、マクロ経済レベルおよび企業レベルの知見に基づき、3段階のインフレ・プロセスに関する我々の議論を展開する。最終節では、政策的な結論を導き出す。
2.寡占市場における価格設定の原理:価格戦争を避け、他の者たちと行動を共にする
理論的な議論を導くために、市場支配力を持つ企業がどのように価格を設定するかという基本的な考察から始める。この目的のために我々は、決算報告書の研究から得た洞察と、具体的な企業の行動の観察によって価格設定を理解しようとしてきた長年にわたる既存文献の、両方を利用する。例えば管理的価格に関するMeans (1935, 1972)とBlair (1959, 1974)、フルコスト価格に関するHall and Hitch (1939), 不完全競争に関するSraffa (1926)や Robinson (1969 [1933], 1953)およびChamberlin (1933)、 Galbraith (1952a, b, 1957)、そしてポストケインズ経済学 (Lee, 1999) などが、その典型例である[4]。興味深いことに、価格設定行動に関する初期の研究は、経済学においては価格が最も明確に定量化され、フォーマルに理論化された現象であるにもかかわらず、企業経営者へのインタビューなどの定性的手法に回帰していった(例えば、Kaplan et al., 1958)。
価格設定に関するこれらの文献はすべて、寡占産業における価格は、需要と供給の単純な論理に従わないという共通の視点を有している。ただし、コモディティという重要な例外はある〔コモディティはエネルギーや穀物などの均質な商品のこと〕。Kaldor (1985, 22)が『均衡なき経済学(Economics without Equilibrium)』で述べたように、「『主食』に含まれる大きなコモディティの市場は疑いなく、教科書のなかの純粋競争かつ柔軟価格のオークション市場に最も近い、現実世界の同等物」なのである。コモディティ生産企業はたとえ大企業であってもプライステイカー(price taker)である〔プライステイカーとは、市場で決まる価格を受け入れる存在のこと〕。ただしコモディティ価格はマーケット・クリアリング型ではなく、市場参加者はふつう在庫を保有しており、需要と供給は均衡していない。またその価格も均衡しておらず、他の部門よりも頻繁に激しく変動する(同上、18-19, 22)。コモディティ価格は「(その需要を支配する)世界の工業生産の成長率の変化に対応して」大きく変動するのである(同上, 22)。
コモディティとは対照的に、他のすべての寡占市場では、市場支配力を持つ企業はプライスメイカー(価格決定者)であり、価格に対応するのではなく、受注の増加や在庫の減少といった量的シグナルに対応して、主に供給を調整する(同上, 23-24)。パンデミック前のジャストインタイム生産ネットワークは、このような数量調整の完成版と考えることができる。ただし、このことは寡占市場の企業が競争を考慮せずに価格を設定することを意味するものではない。とはいえ、ここでの価格はコモディティ価格よりもゆっくりとした動きをする「定価」であり、競争は大企業間の戦略的相互作用の論理に従うものである。
戦略的な価格設定に関する文献には、次のような広範な原則が浮かび上がる:
企業は価格を下げない。価格戦争に突入する可能性があるからである。
企業は市場シェアをめぐって競争するが、もし価格を下げて他の企業の陣地を獲得しようとすれば、競合他社もそれに応えて価格を下げると予想せねばならない[5]。これは、業界の収益性を破壊する底辺への競争となりうる[6]。
大企業には値下げを避ける傾向があるという仮定は、最近の決算説明会におけるアナリストの質問の多くで、裏付けられている。アナリストの中には、最近の値上げが永久に続くのかどうかを理解しようとして、これまでの傾向とは逆に、企業が最近の値上げの一部を「返上」しなければならなくなる可能性があるのではないかと質問する人もいた。例えば、ウエルス・ファーゴ証券(Wells Fargo Securities)のアナリストは、ペプシコの会長兼CEOであるレイモン・ラガルタ(Ramon Laguarta)に対して、不況や需要減退が起きた場合には、「価格の引き下げは、歴史的に一貫した慣習ではないにせよ、全く問題外ではない」のではないかと質問した(PepsiCo, 2022b)。ラガルタはこれに対して、ペプシコの哲学は「消費者にとって、より高い価値に耐えうるブランドを作ること」であり、それによって「消費者は我々のブランドにもっとお金を払うことを望んでいる」ので、値上げに耐えられると断言した。要するに、せいぜいのところ、値下げは最後の手段である。需要の減少に対しても、企業は値下げではなく、広告宣伝の強化や製品革新で対応する。このようなスタンスは決してペプシコに限ったことではなく、さまざまなセクターの決算説明会での発言に表れている。
企業が価格を引き上げるのは、市場シェアが損なわれないと確信できる場合だけである。
一方、企業は、当分のあいだ市場セグメントを独占的に支配できる革新的な新製品に対しては、コストに見合った高い価格を設定することができる。このやり方は、技術革新のサイクルが速い製品の分野では特に顕著である。例えば、デュポンの会長兼CEOであるエドワード・ブリーン(Edward Breen)は、決算説明会で次のような価格設定方法を説明した。「私たちが本当に価格を決められるのは次世代の製品でありまして、それらはかなり速い新技術サイクルで発売される傾向があります。そのため、たいていは新技術の価格は決めることができます。そして、その技術の価格設定は時間の経過とともに侵食され、私たちが価格を決めることができる次世代の製品に取って代わられるのです」(DuPont, 2021a)。一方、イノベーションと強力なブランド力に裏付けられた、製品市場の独占的支配権がなければ、企業は、他の企業も同じ行動をとると予想される場合に限って値上げをする。これは、価格リーダーシップとして広く知られている。ある市場で最も強力な企業のリーダーシップに他の企業が追随するという、確立された規範のことである。米国最大の食肉加工業者であるタイソンは、価格リーダーシップの一例である。社長兼CEOのドニー・キング(Donny King)は、決算説明会で次のように説明した。「さらに、本会計年度の初めには、主要なカテゴリーで様々な度合いの価格設定を行いました。最近は、競合他社も続々と価格を引き上げていますので、彼らとタイソンとの価格差は縮まってきています」(Tyson, 2022b)。価格リーダーシップの他にも、値上げを可能にするための調整形態があるが、その最もフォーマルなもの(はっきりと形が現れたもの)はカルテルである。
しかし協調は、セクター全体の出来事に企業がどのように反応するかを決める、典型的な価格設定目標に関しての、企業のお互いの知識に基づく、より暗黙の形をとることもありうる。全社的な決算説明会から浮かび上がってくる明確なルールの一つは、企業が目標利益率を追求し、それゆえコスト上昇に対応して価格を引き上げるというものである(Blair, 1977)。コスト上昇が個々の企業だけに起こるものではなく、すべての競合他社が経験するものである場合には、企業は、すべての市場プレーヤーが同じ行動をとるという相互予想を抱くので、安心して価格を上げることができるのである。
不況は部門全体の単価上昇を引き起こす可能性の、ひとつの例である。需要の減少に伴って稼働率が低下し、その結果、生産物1単位当たりの固定費が上昇するため、部門全体の単位費用が上昇するのである。Means(1935)は、大企業の台頭以来、不況時に寡占部門において価格が下がらなかったり上昇したりする現象を、繰り返し観察した。カレツキ(Kalecki, 1954, 17)は、この直感に反する価格設定パターンを次のように理由づけている。「間接経費の水準が主要経費に対して相当に上昇した場合には、売上高と主要経費との比率を高められない限り「利益の圧迫」が必ず起こる。その結果、ある産業の企業間には、利潤を「保護」するために、単位原価との関係で価格を上昇させようという暗黙の了解が生じるかもしれない」。カレツキはさらに、「利潤の「保護」というファクターは、特に不況の時期に現れやすい」と指摘している。ガルブレイス(Galbraith, 1957)は、産業別労働組合が交渉する賃上げが、ライバル企業間の価格上昇を調整する役割を果たすことを示唆し、同様の暗黙の調整を論じている。
同じ論理で、例えばコモディティ価格が大きく上昇した場合など、部門全体の投入コストショックが生じた場合は、価格を引き上げることで利潤を守ろうとする暗黙の合意が生まれることがありうる。このようなコストショックに対応して、すべての企業は価格を上げることで利潤を回復しようとするのである。これはやり過ぎたり足らなかったりして、マージンを拡大させたり縮小させたりして、さらに下流の価格上昇を悪化させたり抑制したりするかもしれない。しかし第一の目標は(最低限の)利潤を守ることである。このロジックは、各セクターの決算説明会でも見受けられる。一例として、アナリストの一人から「未曾有の高価格」について質問されたペプシコの最高財務責任者ヒュー・ジョンストン(Hugh Johnston)は、「イノベーションと、ブランドの構築と展開を中心とした正しい競争方法」のおかげで、こうした高価格にもかかわらず「価格が今後もプラスになるような環境が整っている」と答えた(PepsiCo, 2021A)。ラガルタCEOは「明らかに、一部のコモディティなどで一連のインフレ傾向が見られる中では、こんにちの非常に合理的な環境を壊すインセンティブは、おそらく誰にもほとんどないでしょう」と付け加えた(同上)。稼働率の低下をもたらすボトルネックは、部門全体の単価を上昇させ、同様の働きをすることがある。その企業に投入財を提供する上流部門のボトルネックの場合にも、下流の産業顧客にボトルネックが生じて需要が減る場合にも、個々の企業の稼働率が低下しうることに留意されたい[7]。
上流と下流のどちらのボトルネックでも(あるいは第三のケースとして当該産業で直接にボトルネックが起こっても)単価が上昇する可能性があるが、その結果は対称的でない可能性がある。川下部門の生産物に対する需要の減少や、コモディティ価格の上昇による投入コストの上昇に比べ、サプライヤー(原材料・部品の供給者)のボトルネックによって投入財の不足に直面した企業は、より積極的な価格引き上げが可能となり、利益率を守るだけでなく、拡大させる可能性がある。企業の市場を、ブランド・アイデンティティや商業インフラ、顧客関係などの城壁に囲まれた陣地と考えると、供給制約は自陣の全体にサービスを提供することができないことを意味する。ある部門のすべての企業が同じ状況ならば、競合他社が短期的に他企業の陣地に侵入する能力は根本的に低下する。Sraffa (1926, 545)は(多くの点で不完全競争経済学を確立した)代表的な論文の中で、次のように述べている。「各企業は自らの市場の中で、自ら築いた城壁に守られて特権的な地位を享受し、それによってふつうの独占者が享受するものと(その程度はさておき少なくともその性質において)同等のアドバンテージを得ている」。一時的な供給のボトルネックによって、既存の企業が自陣の一部にしかサービスできない場合においても、不足している投入財には誰もアクセスできないので、この期間においては、この部門に属する他企業からの挑戦の圧力も、新規参入の危険性も、劇的に低下しているのである。
これにより、企業は一時的に独占力を獲得しうる。需要は供給をはるかに上回り、基本的に〔価格に対して〕非弾力的なものと認識される〔需要の価格弾力性が低いとは、いくら値上げしても需要はほとんど減らないことを意味する〕。その結果は、突然に需要が激増した場合と同じになる。このような場合に限っては、あたかも各企業の潜在的な陣地が一夜にして大きく拡大し、巨大化した王国の国境線と比べれば、まだごく一部しか支配できていないような状態になるのである。
こうした暗黙の了解に加えて、コスト増に対応してマージンを確保・拡大するために価格を引き上げるという戦略をとらない企業を懲らしめるために、株を売るという形で明示的に制裁を加えるメカニズムもある。この点では、ディスカウントストアのターゲット(Target)とウォルマート(Walmart)が2つの顕著な例である。2021年、両社は当初、顧客愛着度を追求するために、コスト上昇を吸収して価格を低く抑える戦略を発表した。しかし好業績にもかかわらず、投資家の反応は株式の売り越しであった。他の小売業から逸脱し、値上げによる短期的な収益性よりも長期的な市場シェアを優先した価格戦略が罰せられたのである(Mabud, 2022b; Repko 2021, 2022)。このように株を売られる危険性を考えると、大口投資家のアナリストが企業に対して、決算説明会で値上げ計画について頻繁に質問することは、迫り来る脅威の一種として読み取ることができる。短期的な収益性を高めるために、あるいは守るために価格決定力を行使しようとしない企業は、金融市場から制裁を受けるリスクがあるのである。
この議論は、3つのポイントにまとめることができる。第一に、企業はふつうは価格を下げず、革新的な新商品の場合を除けば、他の企業が同じことをすると予想される場合にのみ価格を上げる。言い換えれば、他の者たちと行動を共にする。第二に、フォーマルなカルテルや価格リーダーシップの規範のほかに、セクター全体のコスト上昇は、業界内の値上げの調整メカニズムとして機能しうる。なぜなら、すべての企業は利益率を守りたいし、他の企業も同じ目標を追求していると知っているからである。このルールに従わない企業は、金融投資家からペナルティを受ける可能性もある。第三に、需要が既存の生産能力を大幅に上回る場合(供給ショックか需要ショック、あるいはその両方)、企業は一時的に独占力を得て、利益率を高めるような方法で価格を引き上げることができるようになる。このような一時的な独占でない場合は、企業はコストを下げることによって利益率を高めようとする。
需要制約に関しては、多くの企業が需要の価格弾力性をモデル化しているが、需要というものは、初歩的な経済モデルが示唆するような所与のものではなく、状況に応じて様々な戦略ツールを活用して把握すべきものだと、決算説明会で明らかにされている。最終的な目的は、目標利益率の追求である。ペプシコの副会長兼CFOであるヒュー・ジョンストンは、ある決算説明会で「私にとって価格弾力性とは、基本的に単一の数値に決めてしまうものではなく、管理すべきリスクのポートフォリオなのです」と語った(Pepsico, 2022c)。このことは、価格弾力性が外生的な、消費者の心の中の固定した存在ではなく、動的で成形可能なものであるという意味である。この観点からは、パンデミック時の景気刺激策などの現金給付は、このポートフォリオにおけるリスクとチャンスの要素の1つなのである。企業が需要を管理するために使用するツールには、例えばパッケージの大きさや、参入価格点(entry price points)、それに広告などがある。また、需要を非弾力的にする顧客側の要因もある。これは、〔顧客が消費者の場合の〕短期的な代替可能性が低い必需品や、〔顧客が企業の場合の〕確立された生産プロセスへの特定の投入財の場合である。また顧客がブランド化によって情緒的な愛着を持つようになった商品も同様である。
需要の価格弾力性は、最終的には企業と顧客の社会的関係の一部である。決算説明会からは、値上げが正当なものであると認識されれば、顧客はより高い価格を支払うはずだと、企業が考えていることが分かる。値上げの正当性は、メディアの報道と世論によって作り出されることもある。サプライチェーンの分断とエネルギー価格の爆発というナラティブ(物語)は、顧客側に価格上昇への理解を醸成しうる。値上げにこうした正当化がなされなければ、ふだんこの企業から商品を買っている顧客は、裏切られたと感じるであろう。企業のトップは決算説明会で、価格設定には顧客との関係構築が必要であり、そのためには理解を深めることが必要であると明確に述べている。タイソンのドニー・キングCEOは、バークレイズのアナリストから顧客との価格交渉について質問された時に、次のように答えた。「顧客との関係を思い出してください。これは何年もかけて築いた関係であって、私たちにとっては取引ではありません。ですから、彼らはとても賛成してくれるのです。彼らは、インフレの必然性を理解しています。そして、この努力(=値上げ)はかなり成功すると思います」(Tyson, 2021a)。この関係は、企業間取引ではより具体的だが、最終消費者にまで及んでいる。例えばペプシコの最高経営責任者であるレイモン・ラガルタは、同社の値上げのアプローチについてコメントした際に、この多層的な関係に言及した。「だから、我々はパートナー(つまり小売企業)と完全に連携して、消費者を我々に引き留めて、買い物客が店に来てくれるようにしているのです」(PepsiCo,2022a)。
したがって、大企業が設定する価格は、最適なものでもマーケット・クリアリング〔市場精算的・需給均衡的〕でもなく、経路依存的な戦略的相互作用の結果である。しかし、それでもなお、大企業は競争によって制約を受けることになる。ある部門の価格が他の部門をはるかに上回る利潤をもたらすほど高ければ、長期的には新規参入を招き、場合によっては部外者によって価格戦争が引き起こされる可能性がある。また、価格が低すぎると資本が流出し、弱小企業がダメになり、企業集中が進み、値上げの調整がしやすくなる傾向がある。
全体として、この議論は、価格上昇のための調整メカニズムがなければ、コモディティ市場を除く集中市場では価格が比較的安定する傾向があることを示唆している。この2つの洞察は、長年にわたる経験則によって裏付けられている。価格調整においてコストが重要な役割を果たすということは、セクター間の価格が相互依存的であり、インプットとアウトプットの関係を通じて結びついていることを意味する。
3.売り手インフレ:刺激・伝播・増幅・賃金闘争
このセクションでは、上に述べた価格設定の原則を用いて、COVID-19のパンデミックの文脈で、価格設定やインフレ、利益についての解釈を展開する。
3.1 理論的な議論
長期間の物価安定の後、なぜ寡占産業の大企業がパンデミック時に価格を引き上げ、それが一般的なインフレプロセスにつながったのかを概念化するために、長期物価安定の後のインフレプロセスについて3段階の枠組みを開発した(図解は図3、p.26を参照):
1. システミックに重要なセクターにおける初期価格上昇の刺激段階;
2. コストショックの段階における伝播と増幅、そして
3. 労働者が実質賃金の損失を取り戻そうとするときの賃金闘争段階。
これらの段階はある程度重複している。多くの部門で物価の安定が続いている一方で、刺激段階では別のセクターで最初の価格上昇が見られる。伝播と増幅の段階では新しい刺激が発生し、増幅によって新しい刺激が生じる可能性がある。しかし、これらの段階を区別することは、インフレのダイナミズムを支えるプロセスを、より明確に理解するのに役立つ。ここでは、段階別にこのことを説明する。全体として、私たちが説明するインフレプロセスは、ラーナーの意味での「売り手インフレ」に相当する(Lerner, 1958)。これは、「(物価が)上昇するのは、現在の価格で買いたいものを全部買えなくなった買い手からの圧力によるものではなく、『値上げを主張する売り手の圧力によるもの』である」(Lerner 1958, 258)という洞察に基づく。インフレが始まる以前は、経済全体として低インフレの時期が長く続いていた。パンデミック前の文脈では、数十年にわたって、物価上昇率は物価安定目標と同じぐらいかそれより低い状態が続き、一方で企業の利益率は上昇していた(「はじめに」参照)。そこで、なぜ企業はパンデミック前には全面的な価格引き上げを行わなくても、利益率を向上できたのかという疑問が生じる。これは新古典派的な視点からは説明しにくいことである。市場集中度の高まりによって利益率の上昇を説明できると思われるかもしれないが、この観点からは、独占力の強化が価格上昇としても現れると予想されるであろう。新古典派の枠組みで利益率の上昇を説明するには、コストの削減が考えられるが、この場合には、価格を下げることが最適となる。これに対して、前節で述べた原理に基づけば、物価の長期安定は全く不可解なことではない。企業は価格戦争の危険を避けるために、値下げを避ける傾向があるので、コストの低下によってマージンの増加を説明することができる。パンデミック前の数十年間は、コスト削減を目的としたグローバルな新生産体制が台頭し、さらに生産性が上昇する一方で、実質賃金が低迷していた時期である。この時期がグローバリゼーションのピークであり、低賃金国への生産委託や、(究極的に脆弱ではあるが、機能している間は非常に効率的だった)「ジャストインタイム」のグローバル生産ネットワークの構築の時期であった。さらに上記のような観点から、市場の集中度が高まっていても、業界全体の調整メカニズムが起動しない限り、経済全体の価格が大きく上昇することはないであろうと考えられる。このような調整メカニズムの起動が、インフレを可能にするのである。
刺激段階では、一部の部門で、投入財のコストや相対価格の変化以外の理由で価格が上がる。大まかに言えば、パンデミックの文脈では3つの原因が考えられる。第一に、最も重要なのは、コモデイティ価格が、COVID-19の当初のシャットダウン期(2020年の第1四半期と第2四半期)に下落した後で、2020年の第3四半期にコモディティ価格の急騰が起こったことである。カルドアが予想したように、またゴールドマン・サックスが主張したように(Currie et al. 2022)、これは上半期にロックダウンや生産量の減少が見られた後で、世界の生産量が回復したことに起因している。その結果、コモディティ部門の収益性が高まったのである。第二に、コンピュータ・チップや海上輸送サービスなどの重要な投入財の逼迫により、ボトルネックを抱える企業や、その企業からの重要な投入財に依存する川下企業は、一時的に独占力を得て、 需要側が許す限りの値上げができた。この値上げは、稼働率の低下や、(すぐには実施できない)代替的な対応によるコスト増によって相殺されない限り、収益性の向上につながる。第三に、2020年の景気後退によって生じた生産減少は、稼働率の低下によって製品単価が上昇し、利益率が低下した場合には、より小さいながらもより広範に、価格上昇の刺激をもたらした可能性がある[8]。この収益性の低下を防ぐために、企業は値上げで対応したのであろう。投入財生産部門でこうした値上げが行われる場合には、バリューチェーン全体で値上げの刺激として働く最初の2つの動力源に加えて、コストショックをもたらす可能性がある。汎用性のある投入財を生産するシステミックに重要な上流部門で、このような刺激が発生する場合には、バリューチェーンの部門間や、様々な段階のあいだで、ドミノ効果を引き起こす力が特に強くなる(Weber et al.2022) 。
伝播段階では、刺激段階の価格上昇によって生じたセクター全体のコストショックが、価格上昇の調整メカニズムとして機能する。企業は、コストショックに対応する方法はコスト転嫁であるという競合他社との暗黙の合意によって、利益率を守るために安心して価格を上げることができる。サプライチェーンの問題やコモディティ価格の高騰に関する日々のニュース報道は、企業間の暗黙の価格合意の形成に役立つだけでなく、価格上昇に対する顧客の理解を深め、需要の価格弾力性を低下させる可能性もある。
利潤マージンを守るためには、企業はコスト増加分よりも大幅な値上げをせねばならない[9]。この企業が値上げをしたら、サプライチェーン内の次の企業も同じように値上げをする。ただし、最初の川上での値上げと、前の企業のマークアップの引き上げを織り込んだコストアップからスタートせねばならない。すべての企業が同様の行動をとれば、たとえ利益率が一定であっても、名目利益額の増加効果が累積してゆく。したがって名目利益額が増加しても、利益率が一定の企業は、コストプッシュから自らを守ることができたに過ぎない。しかしさらに、ある部門で供給側のボトルネックや需要ショックが起こって、その部門内の企業に一時的な独占力を付与した場合には、利益率はさらに高まり、最初のコストショックがサプライチェーンに伝播するだけでなく、増幅される可能性がある。
いずれの段階においてもインフレはこれまで、主に名目利益額の増加をもたらすコストショックによって引き起こされてきた。一方で労働者は、物価上昇によって実質賃金が低下し、生活水準が低下すると考える。そのため結局のところ労働者は、生活水準を回復させ、失われた実質賃金を取り戻そうとする。これは、このインフレ過程における賃金闘争段階に相当するもので、インフレに内在する分配的対立の現れである(Rowthorn, 1977)。しかしこの段階では、労働者は非常に守勢に回っており、失われた陣地を取り戻そうと反撃を試みているだけである。仮に労働者が国民所得に占めるシェアを回復できたとしても、値上げによる国民所得の増加を利益フローが吸収していた時間枠は、労働から資本への一時的な所得移転として機能したことになる。
我々の枠組みでは、このようなダイナミクスは、マクロ経済環境や制度の違いによって、一過性であったり持続的であったりする。伝播・増幅・賃金闘争の引き金となった当初の刺激が収まれば、伝播と増幅の段階が一巡し、労働者が国民所得に占めるシェアをなんとか回復させるだけだということもあり得る。その結果、物価水準の広範な上昇は「一過性」のものとなる。しかし、そのような「一過性」のインフレでさえも、相当の期間にわたって続くことがあり、経済的な不安定性をもたらし、生計費危機を引き起こすことがある。インフレが一過性のものである可能性は、政策的な対応が不要だということを意味しない。我々の分析では、経済全体の価格設定の軌跡は、最適なマーケット・クリアリングという普遍的な法則で決まるものではなく、経路や状況に依存するものである。投入・産出関係(産業連関)のネットワークとしての経済の性質を考えると、いったんバリューチェーン上の企業全体に値上げの環境が確立されると、すべての企業はコストを埋め合わせるためにさらなる値上げを正当化し続けることになる。システミックに重要な部門で十分な市場支配力を持つ企業が、コスト上昇を伝播するのみならず、それを増幅し続けるならば、自律的な「価格・価格」スパイラルが持続することが想像される。さらにこうした値上げに対して労働者たちが賃金闘争段階で損失を補い、国民所得に占める割合を高めることができた場合には、新たなコストショックという形で刺激がもたらされ、企業が値上げによって利潤を守ろうとし、伝播プロセスを再開させるかもしれない。
理論的には、上流部門の価格ショックから始まった賃金闘争インフレがスパイラル化する可能性はあるものの、これは現在の米国の状況ではありえないシナリオである(Galbraith, 2022)。しかし私たちがパンデミックや地政学的緊張、気候変動といった緊急事態が重なる時代に生きていることを考えると、システミックに重要な上流セクターでより頻繁にショックが起こる未来が到来しているように思われる(ウクライナ侵攻後の2022年のショックは予兆的な例である)。コモディティ部門の企業は、記録的な価格水準に対して十分な供給増で対応していないため(Wallace 2022)、この手の重大なコスト刺激は、再発する可能性が高いものである。
3.2 マクロ経済レベルでの観察
安定と刺激、伝播と増幅、そして賃金闘争のダイナミクスは、時間の経過とともに様々なセクターで、様々なレベルで重層的に展開されうると、我々は主張する。インフレの各段階に関するマクロ経済的な分析によって可視化されるのは、同時多発的なショックとその伝播の複合的な効果である。2021年第2四半期以降は、企業が利益を守ろうとしたために初期価格ショックが伝播・増幅された時期であり、労働者は価格上昇によって失った陣地の一部を取り戻すことができたに過ぎない。2022年の第1四半期と第2四半期には、ウクライナでの戦争を契機に、利益と価格の上昇が再び起こった。最後に、2022年の第3四半期は、インフレによる名目所得の増加のうち労働が占める割合が大きくなった唯一の四半期である。この賃金闘争インフレの時期には、労働者がそれまでの損失をある程度回復したものの、四半期のインフレ率はそれほどでもなかった。
図2上(p.25)は、経済分析局(BEA)の非金融法人事業部門(NFCB)の国民所得集計データを用いて作成したものである。この部門は、民間部門の粗付加価値(Gross Value Added, GVA)の約65%を占める。この図は、インフレに起因する名目GVAの増加分が利益と賃金の間で分配される様子を経時的に示している[10]。黒線は非金融法人事業部門のGVAデフレータ〔物価指数〕の前年同期比変化率として測定された年間インフレ率を示し、青と赤の棒グラフはインフレに起因する名目GVAの変化のうち、賃金所得と利益の変化という形で労働と資本が「つかみ取った」金額を示す[11] 。したがって、賃金と利益の比率が56対44から乖離している時期は、インフレよる名目GVAの増加分を、労働か資本のいずれかが、GVAに占めるシェアよりも多めにつかみ取った時期であることを意味する。図2上では、黒い十字が賃金と利益の「均等」な分配を示し、赤い棒が黒い十字より上に来たときは、インフレによる名目GVAの44%以上を利益が占めた時期を、黒い十字に達しないときは利益のとり分が44%未満だった時期を示している。
図2上が示しているのは、パンデミック以前にはマクロの物価が比較的安定していた時期が長く、物価上昇率は低く、名目GVAの伸び率は賃金の伸び率とほぼ同じであったということである[12]。このようにGVAの成長を分かち合うパターンは、2020年第1四半期からのパンデミックの発生によって劇的に変化した。前年比の変化では、より短い時間スケールで起こる急激な変化のダイナミクスが不明瞭になる可能性があるため、図2下(p.25)は2020年第1四半期以降の期間に注目し、四半期ごとの物価上昇率の変化と、利益の比率を表示している。表1(p.30)は、年次データと四半期データを合わせて、利益と賃金によって捕捉される物価上昇幅をパーセンテージで示したものである。
2020年の最初の2つの四半期は、実質GVAと名目GVAが収縮する唯一の時期であり、ユニークである。GVAデフレータが第1四半期はマイナス〔-0.2%〕、第2四半期はプラス〔0.7%〕ということは、第1四半期は名目GVAが実質GVAよりも縮小し物価デフレ期であったが、第2四半期は名目GVAが実質GVAほどには縮小しなかったということである。図2下の中で、四半期の青棒がプラス、赤棒がマイナスになっているのは、名目賃金が増加したことを意味しない。賃金は実際には第2四半期に大幅に減少している。むしろ生産縮小が名目賃金総計に与えた悪影響が、利益に与えた悪影響よりも小さかったことを意味する。このことは第2節と第3節1項で述べた、稼働率の低下により単価が上昇する可能性があるという考え方と整合的である。それでも、四半期の物価上昇率と、前年同期比の物価上昇率は、2020年第1四半期から第2四半期にかけては低かった。
我々の枠組みで言えば、パンデミック発生から2021年第1四半期までは、初期のサプライチェーン停滞とコモディティ価格上昇によって物価が上昇し、一部のセクターで大儲けが起こる刺激段階であった。2020年の前半の2つの四半期(上半期)とは逆に、2020年の後半の2四半期(下半期)と、2021年の最初の四半期(1~3月)においては、インフレに起因する名目GVAの上昇が、圧倒的に利益によってつかみ取られたことがわかる。図4(p.27)は、生産停止や雇用減少によって2020年上半期に低下した名目賃金と利益が、〔2020年下半期には〕ともにパンデミック前の水準に戻ったものの、利益上昇率が賃金上昇率を上回ったことを示している。2020年上半期の景気後退期に名目利益が名目賃金よりも急速に低下し、その後、パンデミック前の水準に戻るまでの各四半期に、賃金よりも利益が急速に上昇したこと自体は、特筆すべきことではないかもしれない。しかし興味深いのは、名目利益の増加によってパンデミック以前の水準へとGVAが回帰した時期が、特に2021年第1四半期のインフレ加速の開始と一致していることである。この時期までに、サプライチェーンのボトルネックが始まり、コモディティ価格と輸送運賃が上昇し、2021年第1四半期には全商品の生産者物価指数(PPI)が年率7%で上昇したのである。木材製品や工業用化学製品、一次金属などのコモディティ生産部門では、製品価格の急上昇によって利益が急速に膨らみ始めた(図5、p.28)。この刺激段階では、利益がインフレを牽引することになったのである。しかし、このインフレ期の収益性には、最大手企業だけをみても、部門間・企業間で大きなばらつきがあることに注意が必要である(図6、p.29)。特にシステミックに重要な川上部門での利益の爆発が、システミックなインフレの刺激を提供する上で最も重要である。
2021年第2四半期以降は、刺激段階における川上産業の最初の価格上昇が伝播・増幅される時期である。この段階では、下流部門の企業がコスト上昇から利益率を守ろうとするが、その成功の度合いは、個別の部門ごと企業ごとの市場条件によって異なった[13]。一部の企業はパンデミック前の水準の利益率をかろうじて維持できただけだったが、他の企業はコストを相殺するのに十分すぎるほど価格を上げて、利益率を膨らませ、それによって価格圧力を増幅した(3.3節参照)。さらに、労働者のGVAシェアは一時的に、パンデミック前のシェアに戻った。図2下と表1(p.30)によれば、2021年の第2~第4四半期においては、インフレに起因する名目GVAの増加分のうち、労働と資本の取り分は、歴史的に平均な水準であった。しかし、これは労働者がその前の3つの四半期に経験したインフレによる損失を、回復したことを意味しない。売り手インフレの初期段階は、基本的に下から上への所得移転として機能し、それが逆転することはなかったのである。賃金は一貫して物価上昇率に追いつかず、ほとんどの労働者は実質賃金の低下を経験した(Rich, Tracy, and Krohn, 2022)。さらに、2022年の最初の2つの四半期は、ウクライナでの戦争がさらなる物価上昇の新たな原動力となったため、歴史的に高い物価上昇率のもとで、名目国民所得の増加が再び不釣り合いなほどに、利益として取り去られた。2022年の第3四半期は、物価上昇率が大幅に低下した時期ではあったが、名目GVAの増加に占める労働のシェアがいくぶん回復しえた。したがって、この時期は賃金闘争期に相当するが、これはインフレが緩和された時点でもある。このように賃金闘争インフレは、いくつもの四半期にわたって、利益主導インフレによって労働者の国民所得のシェアが低下したことに対する反応なのである。
2022年第4四半期の賃金と利益に関する集計データは、本稿執筆時点では入手できないが、最新の物価データによると、インフレ慣性がかなり鈍化し、CPIの月次変化率はパンデミック開始以来、最低の水準となった。これは、サプライチェーンの混乱が緩和され、世界のコモディティ価格が低下したことに伴うものである。物価上昇率の鈍化が続くなら、それは伝播と増幅の段階が一巡し、国民所得に占める労働者のシェアが最近になって回復したことが、さらなる物価上昇の刺激として機能していないことを示すものとなる[14]。ただし私たちは、将来の刺激・伝播・増幅・賃金闘争のプロセスは、必ずしも短期間で終わるとは限らないことに、今後も注意してゆきたい。
3.3 企業レベルでの観察
物価上昇プロセスの各段階のマクロ的な現れ方を背景として、本節では、物価と利益の変化に関する理解を促すために、少数の企業レベルのサンプルによって証拠を示す。これは、企業レベルの定量的データ(付録の各図を参照)と決算説明会から得られた洞察を組み合わせた探索的研究であり、決定的な結論を示すものではなく、将来の研究を刺激することを意図した、予備的な知見を提供するものである。決算説明会は、上場企業が四半期ごとに開催するものである。最高経営責任者が投資家やアナリストに対して、企業の業績や戦略について報告する。2020年第4四半期以降、価格設定に関する議論が活発化しており、本分析ではこれを参考にした。
インフレの進展にとってシステミックに重要であるとWeber et al. (2022)で指摘された部門における、極端に大きないくつかの大企業に分析の焦点を当てる。したがって、我々のサンプルは経済全体を代表するものではないが、我々が考慮した企業は、全体的なインフレのダイナミズムにとって非常に重要である。付録の表1は、決算報告や利益・価格変動を参照したすべての企業のリストである〔表1のリストは、原典においても欠落しておりp.33以降の各グラフをそのまま参照されたい〕。企業は、刺激段階での最初の価格爆発と利益爆発に主要な関与をしたか、あるいは最初の価格上昇を伝播・増幅するように機能したかによって、大きく2つのグループに分けられている。なお、伝播と増幅の間には違いがあることに注意されたい。
経済全体にとって重要となるほどの価格上昇の刺激を、他の部門に与えるためには、その企業が他の企業にとって重要な投入財の供給者であることが必要である。言い換えれば、上流部門での価格爆発は、経済全体に波及する可能性が高い。刺激段階で取り上げる企業は、価格と利益が大きく上昇した巨大上場企業であり、川上部門に属する企業ばかりである。
明らかに、最も重要な刺激は、化石燃料価格の甚だしい上昇からもたらされた。Weber et al.(2022)の分析は、インフレにとっては化石燃料部門がシステミックに最も重要な部門であることを示している。最近の研究では、エネルギー価格の上昇が英国のインフレに及ぼした直接的・間接的な影響は、大きいものだったことが分かっている(Saunders、2023)。世界最大の非政府系石油会社であるエクソンモービルのケースは、パンデミックが利益に何をもたらしたかを説明できる[15]。需要減退による原油の価格と数量の落ち込みの結果、利益は2020年にマイナスに転じ、第4四半期には大幅な赤字となった(付録図4、p.36)。数量の減少に対応するために、生産性の低い生産設備が停止されたことが決算報告から明らかになった。2021年第1四半期に原油価格が上昇し始めると、数量の伸びは比較的小さかったにもかかわらず、利益額と利益マージン率は直ちにプラスに転じ、2022年第3四半期まで上昇を続けた。コスト高の設備は、価格上昇にもかかわらず再開されなかった[16]。シェブロン(Chevron)とエクソンモービル(ExxonMobil)のCEOは決算説明会で、マージン率を高めた要因の1つとして、生産コストの低下を挙げている(Weber 2022)[17]。未曾有の利益額とマージン率は、ウクライナ戦争後の2022年はじめに、原油価格がさらに高騰したことによる第二の刺激によって実現した。エクソンの最高経営責任者であるダレン・ウッズの言葉を借りれば、「私たちは、新規の生産能力がなく、多くの生産能力が利用不能になることによって、このギャップを作ってしまいました...。生産能力の回復はありません。そのため、需要が回復しても、それに対応する能力がなかったので、過去最高の精製マージンを記録することになったのです」(ExxonMobil, 2022)。シェブロンのケースも似たような話であるが、マージン率の変化に比べて、総利益額の増加が相対的に大きくなっている。シェブロンのCEOであるマイク・ワースは、2021年の第4四半期の決算説明会で、「ここ2四半期は、同社がこれまで経験した中で最高の2四半期でした。そして昨年は、当社史上最高だった年を、25%も上回ったのです」と伝えている(Chevron, 2022b)。シェブロンは、過去最高の利益を設備投資に使うよりも、株主に配当することを優先し、生産を拡大するよりも「利益を得ることに集中」した(Chevron, 2022a)。石油会社はプライステイカーであるが、パンデミックによって、他の状況では起こらないような協調的な数量削減が可能になった。すべての石油会社が低コストで高価格という状況から利益を得ているため、投資して生産能力を回復するインセンティブは低かったのである。
化学製品は、インフレにとってシステミックに重要であると同時に、エネルギー集約度が高いために化石燃料と密接な関係にあるセクターとして重要な例である。これは価格上昇が見られ、さらなる物価上昇の刺激として機能した部門の一例と言える。米国最大の化学製品会社であるダウとデュポンが2015年に合併し、世界最大の化学会社が誕生した。その後、もとの企業の専門部局を統合して再び分裂した。ダウは2020年第4四半期からの大幅な値上げにより、利益率や利益額が大幅に増加した(付録図2、p.34)。デュポンは同時期に利益率が上昇したが、値上げの寄与は小さかった(付録図3、p.35)。しかし控えめなデュポンのケースでも、決算説明会ではマージン率に対する価格行動の重要性と、価格設定の戦略性が強調されている。サプライチェーンの問題が顕在化し始めた2020年第4四半期にデュポンは、競合他社は皆同じ問題に直面しているので、原材料の制約によってビジネスを失うことはないとアナリストを安心させる一方で、「価格設定のための建設的市場」の利点を指摘した(Dupont, 2021b)。CFOのロリ・コークは、ボトルネックが価格決定力を高める仕組みについて、「産業界におけるいくつかの不可抗力によって、価格環境がより伝達的になったのです」(同上)と説明した。その後の四半期でも、同社は一貫して、価格設定にかかるすべてのコストを回収する自信があることを表明している。2022年にコモディティ価格の緩和が期待される中で、新たなテーマとして、ある最高経営責任者のキャリアにおいて前例がないとされる大幅な価格上昇を、コストが下がり始めたときに顧客に還元しなければならないかどうかが問われるようになった。同社の担当者は、価格を維持することで、持続的に利益率を向上させることができると確信していた。「値上げ分は、すべて製品価格に反映させました。価格指数に応じて変動するようなサーチャージではないので、価格変更の際には顧客が交渉してこなくてはいけません」(Dupont, 2022b)。言い換えれば、値上げは戦略的に「通常」価格に織り込まれ、コスト低下を見えにくくした。デュポンの会長兼最高経営責任者エドワード・D・ブリーンの言葉を借りれば、「明らかに、不況になってコモディティのコストが低下した場合の我々の目標は、ギャップをつかみ、ギャップをしばらく維持することです。コモディティの価格の下落よりも、私たちの価格を維持します」(DuPont, 2022a)[18]。この戦略は、決してデュポンに特有のものではない。市場支配力を持つ企業は不況時に価格を下げない傾向にあるという原理を裏付けるものである。これはまた、川上産業における当初の刺激が、それを解き放った出来事を超えて持続することを意味し、これらの高価格の投入財を使用する企業も、価格を下げない可能性が高くなるのである。
「鉄鋼・合金鉄製造業」は、前方連関の値から見て、米国経済で上流から6番目のセクターである [19]。また、より下流の価格の上昇に弾みをつけた重要セクターの、もう一つの例である。パンデミック初期に下落した「鉄と鋼」の価格は、2020年初頭から2021年末までに100%以上も上昇し、同業界の利益も同程度に増加した(図5右上、p.28)。例えばニューコア(Nucor)の利益の減少や、USスチール(US Steel)の損失は、ちょうどインフレの開始期あたる2021年の第1四半期までに速やかに回復した(付録図6、p.38;付録7、p.39)。2021年第2四半期以降の各四半期において、利益額とマージン率はパンデミック前の平均値よりも大幅に(一部の四半期では2~3倍も)大きくなっている。数量は 2021 年を通して増加し、 2022 年にもそれほどではないが増加して利益の増加に寄与したが、その規模は総じて価格上昇よりも小さかった。ニューコアはこれを、世界的な生産活動の回復を反映した需要の復活と説明している。「当社が確認しているほぼ全ての、鋼の最終用途市場は成長しています。この成長の一部は、米国で経験したパンデミックによる景気低迷からの回復に過ぎないと思われるかもしれませんが、私たちはこれを、一時的な回復を超えるものだと考えています」(Nucor, 2022)。しかし彼らは、価格が上昇する中で、在庫コストが低減し、先渡契約が維持されたことによって、タナボタ利益を獲得したことも認めている。「2021年に原材料価格が上昇したとき、私たちはサプライチェーンで価値を獲得できるだけの在庫を保有していました。...鉄鉱石の価格は、足下でも契約でも安かったのです。私たちはスクラップで儲けました。スクラップヤードにあったスクラップは、毎月ごとに、四半期ごとに、価格が上昇しました」(Nucor, 2021)。ニューコアの場合には、2022年に数量は減少したが、継続的な値上げのおかげで、異常なほど大きな利益額とマージン率が維持された。USスチールは、2022年第3四半期になると、一部の価格と数量が同時に低下し、利益額とマージン率が平均より小さくなったが、それでもまだ大きい。両社の部局はコモディティ的な製品や、より特殊な鋼種や金属加工品の両方を含むため、一部の製品ではプライステイカーであるが、他の製品では価格決定力を持つ。したがって、価格の急騰と利益の大幅な増加は、決算説明会の議論から明らかなように、部分的にはグローバルなコモディティ市場のダイナミクスによって、部分的にはボトルネックに対応した価格上昇によってもたらされている。
ボトルネックの力学を顕著に示す2つの例として、木材メーカーのボイズ・カスケード(Boise Cascade)とデンマークの海運大手マースク(Maersk)がある[20]。マースクは、あらゆるボトルネックの中のボトルネックである、パンデミック時のコンテナ輸送の停滞によって大儲けした例である。数年間にわたって低利益あるいはマイナス利益が続いた後で、パンデミック開始と同時に利益率が上昇し、またたく間に未曾有の高水準に達した。当初は数量が減少していたにもかかわらず、価格の上昇とともに利益が増えた(付録図5、p.37)。2021年には、物量が急増して運賃が急騰した。2021年の第4四半期までに数量が減少に転じたものの、パンデミック後の全期間を通じて大幅な値上げが持続した。ロックダウン後を含むパンデミックの全体を通じて、マースクは莫大な利益額と、マージン率の大幅な上昇を経験した。「製材所と木材保管」のセクターは、鉄鋼よりも上流に位置しないが(前方連関では405位中71位)、2020年第1四半期から2021年第2四半期にかけて木材製品の価格が600%近くも上昇したため、初期のインフレ刺激の一部とみなすことができる。パンデミックの初期段階においては、製材所は操業を停止していたが、住宅ブームと日曜大工ブームで需要が急増すると、ボトルネックが出現した。2020年のはじめの2つの四半期の利益が控えめだったボイズ・カスケードの利益は、2020年第3四半期には近年まれに見る最高値に跳ね上がった(付録図1、p.33)。2021年に復活した需要は、継続的な値上げと相まって、途方もない利益額と利幅をもたらした。2022年に数量が減少し始めたが、十分な値上げにより歴史的な高利益が維持された。
刺激段階で取り上げた分野や企業はあくまで一例であるが、具体的な値上げによって、いかに暴利をむさぼることができたかを示している。価格の高騰は、経済全体の他の企業にとってはコストの高騰となった。経済は投入・産出の関係(産業連関)のネットワークであるため、価格高騰に明確な始まりや終わりはない。例えば、鉄鋼は石油のために、石油は鉄鋼のために重要である。しかし、ある企業は他の企業よりもインフレに大きく寄与しており、マージン率や利益額、価格が大幅に上昇し、前方連関の数が多いという点で、刺激段階に分類した。
また、インフレ期にシステミックな重要性をもっていた川上産業が、刺激よりも伝播を示した例もある。その一つの事例がトラック運送業である。CHロビンソンはフォーチュン200に含まれる、貨物輸送と関連サービスを提供する企業である。彼らは値上げをしたが、大部分は利益率を高めるというより、コスト上昇に対して利益率を守ることに成功しただけだった(付録図9、p.41)。しかし、売上げが増えたことで利益額は大幅に増加した。2022年の第2四半期には、コストが低下しても価格が低下しなかったため、タナボタ利益が得られ、過去最高の利益を達成した。価格上昇や、安定したマージン率、利益額の増加という同じようなパターンを持つもう一つの例は、ホームデポ〔リフォーム・建材・サービス企業〕(付録図14、p.46)である。この企業にとっては、卸売部門もシステミックに重要な川上部門に該当する。鉄鋼会社と同様に、木材などの一部の製品の価格決定はコモディティ的なものであるが、より加工度の高い製品には定価がある。ホームデポとは対照的に、直接の競争相手であるロウズは利益マージン率を高めている(付図15、p.47)。競合他社の値上げは、ロウズがホームデポの利益率に追いつく好機となった。いずれのケースも、パンデミックブームが去り、需要が減少に転じても、大きな値上げが見られる。これは、先に述べた「市場支配力を持つ企業は、主に利益を守るために価格を設定するのであって、需要を誘発するために価格を設定するのではない(販売促進は例外)」という原則と一致している。需要の減少に対応して価格を上昇させたさらに極端な例は、スターバックスである(付録図18、p.50)。
伝播の下流にある2つの例は、巨大企業のペプシコとコカ・コーラである。両社は、特に販売量の伸びが低下したときに、コスト圧力からマージンを守るために価格設定を行った(付録図10、p.42;付録図16、p.48)。食料品店からレストランやガソリンスタンドに至るまで、さまざまな製品市場で優位に立つことで、パンデミック時に消費パターンが大きく変化したにもかかわらず、販売量を比較的安定させることができたのである [21]。彼らの市場は、世界全体の飲料やスナックの一人当たり消費量である。ペプシコのCEOであるラガルタは、決算説明会で一般的な価格設定のやり方を要約してくれている。「私たちの価格設定というか、今後数ヶ月間の価格設定をどうしてゆくかということになりますと、他の企業さんと同じように、私たちのビジネスでも、多くの原材料や労働力、運賃などの投入財でインフレが起きていると言えるでしょう。...私たちは、小売業や域外のパートナーと協力して、マージンを改善しながら消費者を引き留めるために、価格面で正しい決断をしています」(Pepsico, 2021b)。価格引き上げに関する競合他社間の暗黙の了解に加えて、ラガルタはパンデミックの状況における消費者の態度の変化も指摘している。「世界中に見られるのは、価格設定に対する弾力性がこれまでよりはるかに低いことです。それは発展途上市場や西ヨーロッパ、米国に当てはまります。つまり、世界中で、消費者は価格について以前とは少し違った見方をしているようです」。その説明として彼は、「消費者は店頭での買い物が早くなり、価格設定にあまり注意を払わなくなったかもしれません」(Pepsico, 2021c)と、COVID-19の感染の恐れを示唆しつつ、おなじみのブランドへの特別な感情移入を指摘している。
一部の企業は、マージン率を守るだけでなく、程度の差こそあれ値上げによってマージン率を高めることに成功した。これが全般的なインフレのダイナミズムを増幅させた。例えば、2020年に旺盛な需要を享受した、衛生・ヘルスケア製品のメーカーであるプロクター・アンド・ギャンブル(P&G)は、マージンと利益をパンデミック前の水準よりやや高め、販売量の伸びが低下した際には値上げによって利益を維持することができた(付録図17、p.49)。P&Gの最高財務責任者はアナリストに対して、「私どもはインフレ環境に対応する上で...これまでよりも良いポジションにいます。消費者にとって不可欠な日用品カテゴリーすなわち、健康や衛生、クリーニングに焦点を当てたポートフォリオなのです。裁量的な消費財のカテゴリーは、今のような状況では、最初に消費者から見放されるものでしょう」(Q2 2022)と説明している。簡単に言えば、人々が依存している商品を販売することで、P&Gは価格を上げる裁量権を得ることができた。さらに、これらの必需品(紙おむつなど)においては、同社は基礎商品からから高級ブランドまですべての価格帯をカバーしているため、消費者が値上げに応じて比較的安価な製品に切り替えても、P&Gの顧客にとどまるのである(同上)。
世界第2位の食肉加工業者であるタイソンは、2021年後半にマージンと利益を2倍以上に増やしたが、その理由の少なくない部分は、彼らが業界に先駆けて行った値上げによるものである〔付録図19、p.51〕。その後も、例えば穀物価格の上昇による数量減少圧力やコスト削減圧力からマージンを守るために、値上げを続けている。タイソンは、商品価格の変動から「リスクを回避」するために、価格モデルを年間定価から、より柔軟な四半期ごとの価格変更にかえた(Tyson, 2021b)。彼らは「上昇する柔軟性もあれば、下降する柔軟性もある」(Tyson, 2022a)と主張しているが、コモディティのカテゴリーに属する商品は、他の商品よりも価格変動が大きい。タイソンは、鶏肉や牛肉だけの市場で競争しているのではなく、すべてのタンパク質消費において競争しており、「最も付加価値の高い製品から最もコモディティ的な製品まで、スペクトル全体で勝負し、バリューチェーン上のどこにいても消費者にこたえる」(同上)のである。つまり、購買力があって、高価なビーフを買うときはタイソンから買い、インフレで家計が圧迫され安価なチキンに切り替えるときも、やはりタイソンから買うということである。このように代替品に近いポートフォリオを提供することは、戦略的プライシングの可能性を広げることになる。我々が調査した他の多くの巨大企業と同様に、彼らは需要の価格弾力性が低いことを発見したのである。
ブランド加工食品を販売する多国籍企業であるゼネラル・ミルズも、やや似たような増幅パターンを示している。彼らは、最初は数量増加の結果として、後には価格上昇によって、利益とマージンのより持続的な上昇を実現した(付録図12、p.44)。ゼネラル・ミルズは、価格調整における機動性を強調している。「変動する市場において、確実であろうとすることは良いことではありません。必要なのは、よく考え、速く動くことです」(General Mills, 2021b)。ゼネラル・ミルズの例も、セクター全体のコスト変動があるからこそ、価格調整が可能であることを明らかにしている。「インフレはコモディティ全般に、ロジスティクス全般に、アルミニウムや鉄鋼など広範囲に、及んでいます。そのため、このような広範なインフレが世界的に発生した場合には、ネット・プライシングが実現できる環境となります。...しかし、このような環境では...小売業者も競合他社もそれを見ていますし、私たちもそれを見ています。だからこそ、私たちは価格設定を実現するのです」(General Mills, 2021a)。
自動車メーカーも、コンピュータ・チップの不足による一時的な独占により、価格上昇圧力を増幅させた。これにより自動車メーカーは、市場シェアの低下を恐れることなく、利幅の大きい高価なモデルに焦点を当て、広範に価格を引き上げることができた。例えばゼネラルモーターズは、価格設定と車種構成の組み合わせにより、2020年後半から2021年にかけて利益のマージンと金額を高めた(付録図13、p.45)。新車不足は、今度は中古車に対する需要ショックを引き起こした。例えば、米国最大の中古車小売業者であるカーマックスは、2021年第2四半期に販売台数の大幅な増加と価格の上昇を経験し、次の四半期にはさらなる値上げに転じた(付録図8、p.40)。その結果、同社は記録的な利益額とマージン率を享受したが、それは2022年に品不足が緩和されるにつれて減少した。
4 結論
Lerner(1958)は、総需要の過剰とインフレとを切り離すために、「売り手インフレ」という言葉を作り出した。総需要の過剰は、インフレを引き起こすいくつかの潜在要因のうちの一つに過ぎない。だとすれば、金利引き上げや緊縮財政によって総需要を減少させることを目的とした政策手段だけでなく、他の原因に焦点を当てた政策手段も必要である。売り手インフレは、完全競争経済ではありえないことであるが、寡占的な経済ではありうることである。
大企業が価格決定権を持つ経済では、売り手インフレは現実の可能性であり、私たちがいま再び目撃しているものである。これに対処するために、超過需要を抑制するための手段を用いて不況を導けば、そもそも不況をもたらした制度的条件を悪化させることになりかねない。本稿で取り上げた巨大企業は、決算発表の場で「不況に強い」と自信満々に語っている。彼らの製品ポートフォリオは非常に多様であり、売上の管理も完璧であるため、不況下でも顧客に支持されるような勝利の方程式がある。また、グローバルに展開しているため、単一の国の市場に依存しないことも、彼らの強靭さを強めている。これとは対照的に最近の調査では、景気後退が予想される場合には、中小企業の経営者は景気後退をうまく乗り切る準備ができていないと感じていることが示されている(Shippy, 2022)。引き締め的な金融政策自体も、過度に大きな打撃を中小企業に与える傾向がある(Galbraith, 1957)。プライスメーカー(価格設定者)とは対照的にプライステイカー(価格受容者)は、金利支払いの増加によってコストが上昇しても価格を上げることができないため、市場支配力を持つ企業と違って収益性が低下する。その結果、企業の信用力が低下し、融資を受けられなくなる。また、大企業は銀行融資以外の資金調達手段を多く持つ傾向にあり、一般的に銀行金利への依存度を低くすることができる。だが金融政策の不公正さは、影響が中小企業と大企業とで異なるだけではない。結局のところ、金利の引き上げは失業率の上昇を意味し、このインフレの中ですでに守勢に回っている労働者を苦しめることになる。
私たちは、緊急事態が重なり合う時代を生きている。パンデミックは終わっておらず、気候変動は現実のものとなり、地政学的な緊張は高まっている。今後もショックは続くと考えられる。もしシステミックに重要な上流部門をショックが襲えば価格上昇が起こり、さらなる値上げや、本稿で取り上げたようなインフレを引き起こすきっかけとなりうる。最近では価格上昇が緩和されているため、現在のインフレが「一過性」のものであり、ショックは当面起こらないと思われるかもしれない。しかし我々の分析は、売り手インフレがより持続的なインフレに移行することもあることを示唆している。さらに、このような「一過性」のインフレは、経済の安定を損ない、実質賃金が低下する一方で、金融的な被害をもたらす。2022年に2回目の刺激的ショックが発生し、すでに高水準だったインフレを悪化させ、COVID-19のインフレを長引かせたという事実だけでも、政府は、インフレが広範囲に及ぶまでクルーグマン(Krugman, 2021)などの「一過性派」の多くの人々が当初提唱した「様子見」アプローチを採用するのではなく、こうしたインフレ過程の初期段階に対処するツールを開発し、効果的に行動する必要があることを示している。
コモディティ市場については、ケインズやカルドアなどが、価格が一定の経路内に収まるように誘導することで、こうした市場に特有の激しい価格変動を減衰させることができるような、備蓄整備を長年主張してきた(Ussher,2016)。米政権による戦略石油備蓄の活用は、最近の化石燃料価格の引き下げに貢献したものであるが、これはこの論理に沿ったものである。化石燃料価格の低下を維持することは、「グリーン・トランジション」という目標に反すると見なされるであろう。それに対し、例えばドイツで「ガス価格ブレーキ〔またはガソリン価格ブレーキ〕」と称して実施されたような、非線形の価格設定は、価格弾力性の小さい基礎的需要に対する価格安定性を生み出す一方で、節約を促す限界価格インセンティブを維持できる(Weber, Beckmann and Thy, 2023)。化石燃料は現在、システミックに重要な上流資源であるから、このような価格政策はインフレを防ぐために重要である。それだけでなく、気候変動や化石燃料による汚染によって最も大きな打撃を受ける同じコミュニティが、石油価格ショックの主要な犠牲者の一人でもあるため、公正な移行という目標にとっても重要である(Weber, 2022)。安定した化石燃料価格によって大企業や、既得権益を持つ化石燃料部門の権力を増大させる、利益爆発を防ぐことができる。
将来の緊急事態に備えるためには、より幅広い商品について備蓄システムが必要である。コモディティに対する金融投機を制限することも、インフレの引き金となりうる刺激の抑制にとって有効な政策手段となりうる。ボトルネックに応じて企業が一時的に独占力を行使することを防ぐために、米国の多くの州では、緊急時の法外な価格設定を禁止する価格高騰防止法(price gauging laws)が制定されている。ほとんどの場合、これらの法律は消費者の必需品に焦点を当てている。システミックに重要な上流部門について、合法的な値上げの程度を緊急時に制限する同様の規制を国内的に、国際的に設けることは、経済全体に波及しインフレを引き起こす刺激を抑止する上で、重要な役割を果たす可能性がある。価格高騰防止法が効果を発揮するためには、監視能力の裏付けが必要である。タナボタ利益課税(windfall profit tax)は、企業が利益マージンを高めるような方法で価格を引き上げる魅力を失わせ、最初の価格刺激や価格上昇の増幅を起こりにくくする補完的な手段となりうる。最後に、これらの手段がすべて失敗に終わった場合には、システミックに重要なセクターに対する戦略的な価格統制が最後の手段となりうる。これは競争市場よりも、価格が一握りの企業によって管理されている場合の方が、実施が容易なものである。
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