ナオミ・クライン、シヴァン・カルータ
2019.11.25
サンダースは、私たちの経済が再生可能エネルギーに急速にシフトする中で、電力会社は公有化されて管理されるべきであり、最大の汚染者達が汚染修復コストを引き受けるべきだと考えている。
バーニー・サンダースがグリーン・ニューディール計画を携えてアイオワ州に入るが、そのある部分が最も反響を呼んでいる。(訳注:この文章は、サンダーズが民主党の大統領候補指名を争って活動していた時期のものである。)それは、経済が急速に再生可能エネルギーへと移行していく中で、電力会社は公的に所有・管理されるべきであり、最大の汚染者達はその汚染修復コストを負担するべきだという考えである。
サンダーズ計画のこの部分は、ニューヨーク州選出のアレキサンドリア・オカシオ・コルテス下院議員とマサチューセッツ州選出のエド・マーキー上院議員が提出した決議に基づくものであり、興味深いことに、メディアのコメンテーター達から最も反発を受けた部分でもある。コメンテーター達は再生可能エネルギーの公有化を非現実的で過激すぎると、決議提出を受けて批判していたのである。
しかし、多くのアイオワ州民の関心を最も惹いたのがまさにサンダース案のこれらの部分である。
アイオワ州の多くの人々は再生可能エネルギーを支持しており、気候危機に対して非常に大きな危機感を抱いている。なぜなら、アイオワ州はかつてない洪水に直面し、同時に襲う記録的な熱波と寒気によって穀物は枯れつつあるからである。そして、なだらかな丘陵地帯に点在する風力発電所を営利企業が所有する場合、消費者や労働者が不利益を被ることをアイオワ州の人々は、そのつらい体験から知っているのである。
一例をあげると、アイオワ州の主要な投資家所有の電力会社の1つであるAlliant Energy社は、2017年と2018年に料金を引き上げ、今年もさらに20ドル引き上げようとした(これまでのところ、この努力は失敗に終わっている)。アライアント社は昨年5億ドルの利益をあげ、株主に巨額の配当を実施し、そのCEOに600万ドル以上の報酬を支払ったにもかかわらず、新しい風力発電投資のコストを料金の値上げの理由にしている。
このような経験が、ここ数週間、サンダース候補の集会に詰めかけた何千人ものアイオワ州民を、サンダース上院議員の気候変動対策計画に強く共鳴させたのだ。経済的な不平等と不公平が渦巻いている今、公正さと大胆さの双方にしっかりと根ざした計画だけが、大規模な汚染者に立ち向かい、変革的な気候変動対策を勝ち取るために必要な支持を集めることができるということを、彼らは理解しているのである。
サンダース計画の大胆さには疑問の余地はない。彼は化石燃料から経済を救うために16.3兆ドルという驚異的な支出を提案しているが、これは他のどの候補者よりも圧倒的に大きな投資であり、直面する気候危機の規模と緊急性に現実的に対応するものである。しかし、彼の計画の本当の革新性は、その資金の調達方法と使い道にこそある。
10年以上にわたるいわゆる市場主義的な気候政策は、労働者や消費者が気候変動対策費用の大部分を負担することに期待してきた。その結果は、激しい反発であった。チリでは公共交通機関の料金の値上げが最近の暴動を引き起こし、フランスでは燃料費の値上げが同様の結果をもたらした。アイオワ州でも、人々は気候変動対策に反対しているわけではない。賃金の低迷、雇用の喪失、社会サービスの削減などで負担が重くのしかかっているので、気候危機のツケを背負わされることを受け入れることができないだけなのだ。
サンダースのグリーン・ニューディール計画は、人びとにツケを背負うことを求めていない。その代わりに、それは、累進課税・汚染者への訴訟・化石燃料補助金の廃止などの手段を駆使して、汚染者と金持ちに正当な負担を求める。そして、再生可能エネルギー革命からの利益が株主や経営者のポケットに流れ込むのを眺めているだけではなく、公営の電力会社は利益を地域社会にとどめ、真に必要とされているサービスの支払いを助けることができるだろう。計画全体で推定2000万人の雇用を創出するだけでなく、緑豊かな公営住宅、医療、育児への投資を通じて、最も経済的ストレスを受けている人々の生活が直接改善されることになるだろう。
これは非現実的なおとぎ話では決してなく、貧困を終わらせ、頑固な不平等を解消するための戦いと気候変動対策とを融合させるこのアプローチこそが、世界の人々の生活を豊かにする唯一の方策となるだろう。
サンダースの計画が際立っているのは、公平性がアイオワ州のような先進地域の人々だけでなく、地球の反対側に住んでいる人々にも不可欠であることを強調する点にある。
たとえ明日、温室効果ガスの排出を我々が止めたとしても、世界の他の地域での排出のために米国は温暖化し続けるだろう。これが厳しい現実である。言い換えれば、急速に脱炭素化を進めなければならないのは、他の国にも早く同じことをするよう促すためなのである。しかし、そのためにはどうすればいいのだろうか?
繰り返しになるが、鍵は公平性にある。米国は、今では地球を窒息させる脅威となっている温室効果ガスの最大量を排出し続けて大気中に蓄積させて、この問題に最も責任を負っている。そして、米国は世界の総生産に占めるシェアが最も大きい技術先進国であり、問題解決に最も貢献できる国でもある。本質的に世界的なこの危機において、アメリカは最大の倫理的責任を負っている。つまり、世界を行動に駆り立てるためには、国内の排出量を驚異的なペースで削減しつつ、貧困国の排出量削減を支援するという大きな一歩を踏み出す必要があるということだ。
サンダースの計画は、公平な負担の理念を真剣に貫こうとしている。米国での低炭素化への大規模な実践は言うまでもなく、より貧しい国々の変革を協同して支援すること約束している。
その表れが、国連の緑の気候基金への2,000億ドルの拠出である。この基金は、排出量を削減し、気候変動の影響に対処するために、世界の南半球全体のプロジェクトを支援するものである。(オバマ政権は30億ドルの拠出を約束したにすぎないが、トランプ政権は3分の1しか拠出していない時に支払いを中止した)。
さらに、サンダース陣営は、いくら資金を投入しても、乾燥した土地や洪水に見舞われた土地では人々の生活を維持できない場合もある事を認識している。そのため、サンダースがこの選挙戦で新たに発表した移民政策は、大統領就任1年目の間に少なくとも5万人の気候難民を受け入れることを打ち出している。
これが実行されれば、国際的な気候変動の議論に全く新しい方向性を示すことになるだろう。何十年にもわたって指をくわえるだけで約束を破ってきた米国は、みんなが共にこの危機のなかにいるという明白な真実に基づいて行動することになるだろう。
サンダース候補はさらに、米国は世界中の石油やガスのインフラを守るために大金を費やしているのだから、1兆ドル以上の米国の軍事費を削減してグリーン・ニューディールに再投資すべきだという、(政治的にはリスクがあるかもしれないが)常識的な議論を展開している。国防総省は、地球上のどの機関、どの国よりも多くの石油を消費し、温室効果ガスを多く排出しているである。この政策もまたサンダース陣営が、一般の人々ではなく、大きな汚染者こそが、移行の最も大きなコストを支払うことを要求していることを示すものである。
米国が気候変動に関する国際的な約束の履行を拒否した事、とりわけ貧しい国々の公正な移行を支援するための資金援助を執拗に拒否したことで、世界中の政治家たちは、今度は自分たちの番だと主張して、気候変動の混乱に火をつけるようになった。
例えば、ブラジルのジャイル・ボルソナロ大統領は、地球上で最も重要な炭素吸収源の一つであるアマゾンを保護するための国際的な行動は、ブラジルを「植民地」として扱うことに他ならないと拒否している。(訳注:2019年9月の国連総会で、ボルソナロ大統領は環境保護団体などがアマゾン開発を批判するのは、植民地主義的な振る舞いだと述べた。)彼だけではない。これまで通り汚染政策を続けようとする政府は、豊かな国々が汚染を止めていない現状を口実として利用してきた。しかし、もし米国がサンダース候補の計画のように公平な責任を果たせば、化石燃料を使わない未来が本当に可能であることを世界に示して、汚染者が先進国の行動を口実とすることをやめさせることができるだろう。
選挙運動のプロたちのように、こうした議論を非現実的なものだと見なすのは簡単だ。しかし、アイオワ州からチリに至るまで、メッセージは明確である。公平であることは単に良いばかりではなく、気候正義を実現させるには、公平さによって広範な支持を得ることが必要なのである。
候補者の中で唯一、サンダースは大衆の支持を得ている。そしてそれが、彼のグリーン・ニューディールを最も現実的なものにしている。
The Boston Globe
https://www.bostonglobe.com/2019/11/25/opinion/realism-bernie-sanders-climate-policy/
ナオミ・クライン公式HP
https://naomiklein.org/journalism/