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ポストコロナのベーシック・インカム―その財源は?(長谷川羽衣子著)

 

 ベーシックインカム(BI)は最低限の生活を保障する現金を、政府が居住者に一律給付する制度です。世界的なコロナ経済危機によって収入が減少した人や、失業した人が急増していることで、再び導入を求める声が高まっています。2017年から2年間にわたってフィンランドで行われたBI導入実験は、受給者の満足度が高まったという結果でした。スペインでは経済危機対策として、生活保護に近いものながら「BI」という名の政策が導入されました。

 

さて、BI導入の最大の論点は、「財源」です。これまで提案されたような増税・課税、支出削減、社会保障の組み替えももちろん必要ですが、それだけでは十分とは言えません。特に税を「財源」とするBIは、増税への強い反発が予想されるため、導入は容易ではありません。では、どうすればよいのでしょうか。

 

今回、各国の政府は給付や補償のために、数十~数百兆円規模の、前例のない財政出動に踏み切りました。当然、増税によって財源を確保してから行ったのではなく、国債発行で「財源」を賄ったのです。これは近年、欧米で躍進した新しい左派・リベラル潮流の掲げる反緊縮経済理論が、広く知られるようになったことが大きいと考えられます。反緊縮経済理論には、主に①通貨発行権を持つ政府は財政破綻しない、②税は財源でない、などの共通見解があります。BIの導入にも、このような考え方が不可欠です。

 

この方法で懸念されるのは物価上昇圧力ですが、ふなご靖彦議員(れいわ)が参議院・調査情報担当室に委託したシミュレーション(※1)では、1.2億人に1人あたり毎月10万円の給付を4年間行っても、物価上昇率は最大1.8%に留まるという結果が出ています。また、炭素税などのバッズ課税(悪いものを減らすために課す税)や、累進所得税、AI課税などを組み合わせれば、物価上昇を抑えられるだけでなく、気候変動対策や再分配政策としても有効です。

 

国際化した現代、世界的な感染症の流行は今後も繰り返し起こるでしょう。また遠くない未来、AIやロボットによって多くの雇用が失われることが予想されます。だからこそ、従来とは異なる発想で、労働や貨幣の価値を問い直し、経済・社会の構造を大きく変えることが求められています。

 

※1 れいわ新選組代表・山本太郎(2020)【動画:みんなに毎月10万円を配り続けたら国は破綻するか?】(8:24~)
https://www.youtube.com/watch?v=xiM6JLBlk5I

 

 

【参考文献】

 

ガイ・スタンディング(2018)『ベーシック・インカムへの道』プレジデント社

井上智洋(2018)『AI時代の新・ベーシックインカム論』光文社新書

原田泰(2015)『ベーシック・インカム』中公新書

朴勝俊・長谷川羽衣子・松尾匡(2020)「反緊縮グリーン・ニューディールとは何か」『環境経済・政策研究』13 巻 1 号 p. 27-41